【3000文字チャレンジ 】どうぞ、来世に期待しながらお休みください。

【3000文字チャレンジ 】どうぞ、来世に期待しながらお休みください。

3000文字チャレンジ!! お題:睡眠(サブスクリプション、靴、顔、まゆげ、Twitter)

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「·····うわー、マジか。俺死んじまったのかよ。」

ユウキは誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるかのように独りごちた。

 

つい今しがた、はっ!と気付き上半身を起こしてみたら、白装束に全身を覆われ、ご丁寧にも頭には三角の白い天冠が付けられていたのだ。

おまけにお尻の下から脚がなく、吹き出しマークのようにすぼんでしまっている。

まさに絵に描いたような「幽霊」そのままの姿だった。

 

 

辺りを見渡してみると、一面薄ぼんやりと乳白色のモヤがかかった草原のような場所にいるようだ。

「おーーーい!!」

声を張って呼びかけてみるも、その声は反響もなくモヤに飲み込まれて行くようだった。

 

「あぁ、、どうしたら良いんだよ·····ここは天国なのか?地獄?っぽくはないな·····。誰かいませんかー!!」

ユウキは声の限り叫んでみたが、大声は虚しく彼方へ消えていくだけだった。

 

自分の心が途方に暮れるのを感じながら、目を閉じて思い返してみる。

断片的に思い出される最後の記憶は、道路に飛び出したボールを追いかけていた子どもが、トラックに轢かれそうになったのを無我夢中で弾き飛ばした光景だった。

 

(ああ、あれで俺の人生終了ですか·····そうですか。)

流れそうになる涙をグッとこらえながら、自分の短い一生を回想する。

 

あぁ、、、まだ大学生の身分で死んじゃうなんてなー。

仕事に恋を楽しんだり、趣味に時間注ぎ込んだり、家庭をもったりしてみたかったなぁ。。

霊界探偵で復活みたいなワンチャンないかなぁー。

 

『お…、…ま…』

 

霊丸とか撃って妖怪退治するから生き返りてぇなぁー。

あぁ、、けど俺の父ちゃん、フツーのサラリーマンだもんなぁー。

雷禅じゃねぇもんなぁー。。

 

『…い、きこ…る…か』

 

あー、母ちゃん泣くだろなぁー。親孝行しときゃ良かったなぁー。。

だいたい子どもの頃から無鉄砲だなんだと言われてたんだよなぁー。

人の忠告は聞くべきだったよなぁー。

 

『おーーーーい・・・・もし・・・し・・・?くそ・・・!!」

 

あぁ、新しく買った靴も今日届くはずだったのになぁ・・・。

アルバイト代コツコツためて買ったのに。

履いてみたかったのに、足がもう無いなんて・・・ううぅ。

 

『おい、おまえ!無視してんじゃねえよ!目ぇ開けろっ!!』

 

ふと近くから男の怒鳴る声がして、ユウキが目を開けると、目の前にはフワフワと浮く15センチ程の小さなおじさんがいた。

 

「っうわっ!びっくりしたー!!」

『ちょっ・・・ツバ飛ばすなよっ!!汚れるだろが!!ったく!!』

 

「あ、いや、あ、ごめん…なさい。・・・えっと、あんたは…?」

『俺はお前の水先案内人だよ。サガワと呼んでくれ。ここはお前たちが言うところの”あの世”なんだが、何というか中途半端な場所なんだよ。とにかく俺について来い。街に連れて行ってやる。』

 

「…街?天国の街ってことか?…それにしてもサガワ…さん?あんたどこかで会ったことあるか?何だか、すごく見覚えのある顔なんだけど・・・特にその特徴的な吊りまゆげ・・・絶対どこかで会ったことある気がするんだよな。。」

『いや、んなわけねぇだろ。会ってたとしたらお前何回死んでんだよ…ってか人の顔をジロジロと見るんじゃねぇよ。失礼な奴だな。』

 

「あー、、、どこだったかなー。絶対会ったことあると思うんだけど。。うーん・・・。」

 

サガワは手の平サイズの小ささではあるが、顔は30代くらいの精悍な顔つきの男性そのものだ。

健康的な小麦色の肌をしていて、全身に青い衣をまとい、手には小さな黒い手帳を携えている。

これだけ小さいサイズなら、こんなおじさんじゃなくて、かわいらしい天使を案内人として寄越してくれれば良いのに、とも思ったユウキだったが、さすがにその言葉は飲み込んだ。

 

『じゃあ、一応お前の身元を確認するぞ。名前はホンダユウキ。21歳。178cm、68キロ。大学生。趣味はフットサルと靴収集。好きな女優は本田翼と吉岡里帆。死因は子どもを助けての事故死、と。間違いないか?』

手帳を見ながらサガワがユウキの個人情報を読み上げる。

 

「あ、はい。。。っていうか好きな女優とか関係ある!?個人情報ダダ洩れじゃん!!」

『そういうことだ。他にも色々書いてあるぞ。性癖とかもな。くくく、この世では何も隠し事はできんのだ。さぁ、ついて来い。こっちだ。』

「あ、、あぁ。(・・・何でいきなりこんなマウントとられなきゃなんないんだよ、まったく。。)」

 

足が無く、ふわふわと地に足がついていない浮遊感にはすぐには慣れなかったが、歩くより何倍も早く移動ができるのは楽に感じた。とは言え、肉体がないのだから肉体的疲労は何もないのだが。

 

道すがら、サガワはこっちの世界のことを色々と教えてくれた。

曰く、生前に信じていた神によって、霊体が行くコミュニティが違うだの、こっちの世界はいくつかの階層に分かれているだの、天国と地獄の存在と認識についてなど、様々な話があったのだが、どの話もいまいち話の内容が頭には入ってこずに、右から左へ流れ出ていくだけで、ユウキは自分の耳がまるでちくわにでもなったかのように感じていた。

死んですぐの状態で、新しい世界のことを理解しろというのだから無理もない。

 

サガワに付いてずっとモヤのかかった平原を進んでいくと、街らしきものが見えてきた。

街は大きなすり鉢状になっていて、中心に澄んだ水を湛えた湖があった。

昔テレビだか写真だかで見たことがある、砂漠のオアシスのほとりに、ぐるりと円環状に白い石作りの建物が建ち並んだ街の光景に似ている気がした。

 

至るところに人(とは言ってもしっかりと幽霊スタイルだ)がいて、結構ガヤガヤとしている。

ぱっと見、そこにいる人々の性別や年齢は様々だが、基本的には大人しかいないようだ。

どうやら商売をしているお店のような建物もあり、店主と客と思しき人たちが楽しそうに話している姿が目に耳に入ってくる。

 

「ほんとに街だな・・・。みんなここで生活しているのか?」

『生活っていうのは、”生きて活動する”ことだから、お前らみたいに死んでる奴らに使う言葉じゃねえけど、まぁそんなところだ。こっちの世界にはな、こういった場所が無数に存在していて、そこでみんな”徳”を貯めて来世に向かうんだよ。』

「徳?」

『そうだ。自分の精神を磨いたり、善い行いをしてたくさんの徳を積めば積むほど、来世を良い状態で迎えられる可能性が高くなるんだってよ。まぁ、結局のところ来世選びはくじ引き的な方法になるから、徳をたくさん貯めたからって絶対良い結果になるとは言えないんだけどよ。』

「は、はぁ。(全くよく分からん)」

『おい、ユウキ。お前の首からかかってる巾着あるだろう。その中にカウンターがあるから見てみな。』

「えっ?あ、これか。こんな物付けてるの全然気づかなかった。」

『現世と違って肉体的な感覚はほとんどないからな。意識しないと感じないことがこっちの世ではたくさんあんだよ。さっきも言っただろうがよ。』

「へぇー、そうだったっけ。なんだこのデジタルカウンター。えらく現世的だな・・・。119って数字が出てる。」

『それが今のお前の”徳”だよ。」

「ふーん。で、その徳ってのはどれくらい貯めたら良いんだ?」

『一概には言えないが、1億徳くらい貯めると来世に”人”として生まれ変われると言われてるな。」

「い、一億!?途方もない気がする・・・。ってかそれ以下だと虫とか動物になっちゃうの!?」

『まぁ、そういう噂だ。死んだ時点で徳の高い奴もたくさんいるしな。お前の場合、親より先に死んだから、かなりマイナスになってると思うぜ。本来であれば、親より先に死んじまったら”賽の河原”行きが普通だからな。人助けして死んじまったからそのマイナス分が相殺されたのかもしれん。』

「マジか。。賽の河原ってあれだよな・・・延々と石を積まされて、積みあがったと思ったら鬼に壊されるっていう。。」

『あぁ、そうだ。なんだお前、意外と物知りだな。』

「意外と、は余計だよ。」

 

そんな話をしながら街の中を進んでいると、一人の出っ歯の男に話しかけられた。

額には白い三角の天冠ではなく、ハチマキを巻いている。

 

「おい、兄ちゃん、新入りか?!そんな若くで死んじまってかわいそうだなぁ。あぁ、あぁ、何たる悲劇だ。まだ死の実感もないだろう?生き返ってやりたいこともたくさんあるだろ?え?どうだい?」

「え・・・あぁ、はい。(なんだこの出っ歯のおっさん。いきなり慣れ慣れしいな。)」

「そうだろそうだろ。俺はよ、そんな迷える子羊ちゃんたちに夢を見せてやるために、超画期的なサービスを提供してんだよ。どうだ?試してみねぇか?安くしとくからよ。」

「安く、って言われても俺、金なんて一切持ってないんですけど・・。」

「あんな兄ちゃん、この世は金じゃねぇんだよ。徳でやり取りすんだよ。いまいくらあんだよ?え?教えてみな。」

「119徳しかないです。」

「かぁーーー!こりゃ貧しいねぇ。この先徳を貯めるのに苦労しそうだな、兄ちゃんよ。まぁ今回は初めてだから無料で体験してってみろよ。気に入ったらまた徳を貯めてよ、うちのサービス使ってくれりゃ良いからよ。な?」

「無料ほど怖いものはないって言うけど・・・。なぁ、サガワさん。この人の話って信じていいのか?」

『まぁ、何にしても経験してみろ。ここは地獄じゃあないから、そんなにひどいことをしている奴はいないだろうさ。』

「はぁ、、、そういうものなのか。。で、おじさんの提供するサービスってどんな内容なんですか?」

 

ユウキが質問すると、出っ歯のハチマキおやじは得意そうな顔になって猛然と語り始めた。

「いいか。うちのサービスはな、現世の寝ている人の身体を借りて霊体の俺らが憑依してよ、生きている時に遂げられなかった願いを叶えられるっていうサービスなのよ。すげぇだろ?まぁ色々と制限はあるんだけどよ、”ちょっと生き返られる”サービスだと思うとワクワクしねぇか?」

「ちょっと生き返られるサービスって・・・。なんとも怪しい・・・。」

「おいおいおいおい、そんな目で見るんじゃねぇよ。ちゃーんと色んな所に許可を取って、苦労して立ち上げたサービスなんだぜ??安心して使ってくれて大丈夫だ!!」

 

ユウキは訝しむ顔を隠そうともせずに出っ歯のおやじとサガワを交互に見た。

サガワは何も言わずに、「何か聞いてみろよ」と催促しているかのように片方のまゆげをくいっと上下に動かすのみだった。

 

「えっと、、さっき制限があるって言ったけど、例えばどんな制限があるんですか?」

「うーん、そうだな。基本的に憑依できる人間は現世で”ある契約”をしている奴だけだ。まぁその人数も今どんどん増えているけど、全世界でまだ数万人程度だ。で、憑依している間に出来ることっていうのも非道徳的なことはできねぇよ。例えば、人殺しなんかはもちろんのこと、万引きレベルの軽犯罪もご法度だ。あと、そうだな、、、異性には憑依できないし、憑依した人物を使って誰かと密接に関係をもつことも今のところできねぇな。」

 

「・・・・うん?その制限だとほとんど何もできないんじゃないですか?」

「バカヤロー!そんなことねぇよ!!使ってもいないうちからケチつけてんじゃねぇよ!!」

「ひぃっ。」

思ったことを言ったら、出っ歯おやじにえらく怒られてしまった。

 

「兄ちゃん、何かやり残したなぁーって思うこと無ぇのかよ?自分一人で完結できて、そんなに労力も時間も掛からないことで、あぁ、これやり残したわーってこと、何か無ぇか??」

 

「えー、何かあったかなぁ。ってか、いきなり死んじゃったからやり残していることしかないとも言えるんだけど。親とか恋人とかにも会えないんだろ?一人で出来ること・・・。あ、ちなみにこのサービスって本来1回何徳くらいいるんですか?」

 

「お、興味出てきたかい?一応1回いくらじゃなくて、月額いくらっていうサービスで売り出してんだよ。いわゆるあれだ、流行りのサブスクリプションサービスってやつだ。今はひと月39,800徳で販売中だ。」

 

どうでも良いけど、出っ歯おやじがやけにドヤ顔で「サブスクリプション」って言ったのが、無性に腹立たしい。

 

「高っ!!!いや、円じゃないから高いかどうかも判断できないけど。。ってか、サブスク?あぁ、アップルミュージックとかネットフリックスとかみたいな使い放題月額支払いサービスってことか。あ、、、そういや俺、死んじゃったけどそういう月額支払いのサービスとかって勝手には止まらないのかな!?・・・え、あ、え、どうしよ?めっちゃ焦ってきた!!」

 

『どうしたユウキ。今まで落ち着いていたのに、死んだことに対してそんなに取り乱して。なんだ?FA〇ZAの月額サービスにでも加入しているのか?それを解約してないことがそんなに気にかかるのか?』

 

「黙れ!サガワ!!うるさい!!」

 

ユウキは赤面し、人格までちょっと狂暴化している。きっと図星だったんだろう。

 

「まぁまぁ、落ち着けよ兄ちゃん。例えばよ?そういった契約解除とかよ、自分一人でネットからピッと操作して完結できる作業くらいなら、うちのサービスを使えば・・・な?分かるだろ?」

 

「あぁ、なるほど!!おっさん、初回は無料で良いって言ったよな?お願いだ、体験させてくれ!!」

「あぁ、やってみな。じゃあ、まずはこの書面にざっと目を通してからサインしてくれ。で、今回憑依する対象をこのタブレットの地図に表示されている赤いポイントをタップして選んでくれ。」

「ふんふん(読んだフリして)、サイン、と。っていうかこれiPadにグーグルマップ?これ貸してくれたらこの場で俺のネット契約関係全部解除できんじゃねぇの?」

「ははは、そんなうまくはできとらんわ。」

「チッ。そういうもんなのか。」

「舌打ちすんな、ばかたれが。」

なぜか、出っ歯おやじからよく怒られる。

 

「そういや憑依できる対象は世界に数万人いるとか、”ある契約”とかって言ってたけど、どうやって集めてるんだ??」

ユウキがタブレットの地図を指でなぞりながら訊いた。

「ふふふ、俺の双子の弟がよ、現世で宗教を立ち上げたんだよ。”来々来世教”っつってな。生きているうちから降霊体験したり、霊のお役に立って、徳ポイントを稼いで来世を幸せに迎えようってコンセプトなわけだ。地道な勧誘とTwitterなんかのSNSでの勧誘を重ねてかなり信者数が増えてきたんだよ。」

 

出っ歯おやじの言ったことを聞いて、ユウキはじりじりと後退して少しだけ距離をとった。

「・・・何、そのRA〇WIMPSの曲みたいな名前の新興宗教。。怖いんですけど・・・。そんな怪しい宗教に入会しちゃう人間がたくさんいるなんて信じられないけど。」

「まぁ、それだけ現世が生きにくいってこったろ。来世に期待するしか希望が持てない人間様もたくさんいるってこった。まぁ実際に徳も貯まって降霊体験もできるんだからオカルト好きにとっちゃあ良いサービスだぜ。くふくふくふ。」

「くふくふって変な笑い方しないでくれよ。ちょっと怖ぇよ。はぁ、でも、まぁそうなのかな・・。あ、、俺が住んでるマンションの中にも憑依可能な奴がいるぜ。マジかー。世間狭過ぎだろう。。」

 

ユウキはタブレットに表示された、同じマンションに住む男性のプロフィールを眺めながら何とも言えない気分を味わっていた。

 

「さぁ、どうする。誰に憑依するか決めたか?」

「あぁ、この同じマンションの奴にするよ。年齢も近いし、男だし。隠してる合いカギで自分の部屋にも戻れるかもしれないし。」

「オーケイ!今回は無料サービスってことで、お試し程度だからよ。まぁ、緊張しないで用事を済ましてこい。なっ。じゃあ、こっちの部屋に入ってベッドに寝転んでくれ。」

 

出っ歯おやじに案内された部屋に入り、簡素なベッドに横たわる。

 

「はーい、じゃあ目を閉じて・・・・リラックスして・・・・準備が出来たら電子音が流れてくるよー。それを聞いているうちに転送が完了するからねー。」

 

先ほどまでと打って変わっての、やけに優しい口調に気持ち悪さを覚える。

 

ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ・・・

 

『ユウキ、また後でな。』

電子音が聞こえ始め、最後にサガワの声が聞こえた、気がした。

 

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ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ・・・

 

「ううぅぅ、朝か・・・・何だか変な夢見てたな・・・。」

 

ユウキは枕元でうるさく鳴っている目覚まし時計に手を伸ばしてアラームを止めた。

夢の内容はぼんやりと覚えている。

自分が死んでしまった夢。

吉夢ではない分、どことなく嫌な気分が残っているが、それでもあまり暗い夢ではなかった気もしていた。

 

時計の針は午前9時を10分ほど過ぎたところを指していた。

今日は大学もバイトも休みだ。

 

キッチンで水を一杯飲んで、服を着替え終えた時、

「ピンポーーーーーーン」と玄関のチャイムが鳴った。

 

カメラ付きのインターホンに写されたのは青い服を着た男性の胸元だった。

 

「はーい。」

「佐川急便ですー!お荷物お持ちしました!」

「はいはーい。」

 

ユウキは印鑑を持って、玄関の扉を開いた。

「ホンダユウキさん、でお間違いないですか。ハンコお願いします。」

「はい、ありがとうございます。」

 

伝票に受け取り判を押し、荷物を受け取りながら配達員の顔を見たユウキの動きが止まった。

 

30代くらいの健康的な小麦色の肌、特徴的な吊りまゆげで精悍な顔つきの男性。青い服を着ている。

いつも荷物を配達してくれる佐川急便の男性だ。何度も顔を合わせたことがある。

 

「??えっと、何か顔に付いてますか?」

「・・・あ、いや、すいません。何でもないです!!ありがとう、ございました。。」

「はい!ありがとうございましたー。またお願いしまーす!」

 

さわやかな笑顔で走り去っていく配達員の男性の背中を、呆然と見送るユウキだけが玄関に取り残されていた。

 

(あれ、夢で出てきたサガワだよな。そうか、あの佐川急便の配達員の顔が・・・びっくりして見つめちゃったよ。。気まず・・・。)

 

「・・・まぁ、いっか。」

 

そう呟いて、頭をポリポリと掻きながら部屋に戻る。

 

ベッドに腰を下ろして、届いた荷物の封を解きながら、寝ている間に見ていた夢を思い出そうとする。

死んでしまって、小人のサガワに出会って、そのあと出っ歯のおやじに「ちょっと生き返れる」なんてことを吹き込まれて・・・・。

 

「おぉぉ、かっこいいじゃん!!良いなこれ!買って正解かも。」

 

箱から取り出したのは1足のスポーツシューズだった。

タグには「HOKA ONE ONE」と書いてある。

 

「Twitterのフォロワーさんから教えてもらったんだよなぁ。めちゃくちゃ履き心地が最高って。早速履いてみよ♪」

 

思い出そうとしていた夢のことも忘れて、ユウキの意識は完全に目の前の靴に持っていかれた。

靴に足を入れようとした時、また「ピンポーーーーーン」と玄関のチャイムが鳴った。

 

「誰だろ·····。」

インターホンの画面を見てみると、見知らぬ若い男性が立っていた。

年の頃はユウキと同じ20代前半くらいだろうか。

 

ユウキは応対するのもめんどくさいと思い、居留守を使うことにした。

 

玄関前でそわそわとしていた男性は、再度チャイムを押すこともなく、手に持ったプリントをポストに入れて帰って行った。

 

何が入れられたのか気になったユウキは、片手に靴を持ったまま玄関に向かって、ポストに入れられたA4サイズのプリントを取り上げた。

 

そのプリントを見た瞬間、ユウキは世界がぐるんと回り、大きく歪んだような気がした。

呼吸が浅くなる。

左手に持っていたHOKA ONE ONEがボトンと音を立てて、床に落ちた。

 

ユウキの右手に持たれていたプリント。

そこには明朝体で大きく「来々来世教」と書かれていた。

そして、教祖の近影とされる画像はどこかで見覚えのある出っ歯の男性の顔で、その下には力強い文字でこう書いてあった。

 

「あなたも素晴らしい来世を迎える為に、私たちと一緒に”徳”を積みませんか?寝るだけで”徳”は積めます。どうぞ、来世に期待しながらゆっくりとお休みください。」

 

と。

 

 

おしまい

 

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