【3000文字チャレンジ】雨ふらしの巫女の物語

【3000文字チャレンジ】雨ふらしの巫女の物語

3000文字チャレンジ! お題:雨

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青く美しい惑星、地球。

海の水は蒸発し、雲となって、また地上に雨を降らせる。

人々は水の恩恵によって生かされ、また水がなければ生きられない定めでもある。

 

 

 

「ねぇあんた、本当に大丈夫なんだろうねぇ。」

「・・・あぁ?、、まぁ、、たぶんな。」

山道を下りながら中年の夫婦がなにやら心配顔で会話をしている。

鬱蒼とした緑が茂る舗装もされていない荒れた山道。
空を見上げれば雲一つない青空が広がり、太陽がさんさんと照らしている。

 

「本当に今年の梅雨は空梅雨だな・・・干上がっちまう。。」

額にかいた汗を拭いながら、男が言葉を発した。

「だからって、このご時世に雨乞いだなんて、、、。しかも結構な金額よ?みんなから集めたお金ドブに捨てるようなもんじゃないの・・・。」

「いや、、まぁ、きっと大丈夫、、だろ。ひいじいさんが残した書物に書いてあったんだ。今はもう朽ちておんぼろになってしまっちゃあいるが、昔は日照りが続けばみーんなあの神社に行って雨乞いをお願いしたんだってよ。」

「・・・そんな古い話。。しかも出てきたのは、年端もいかない巫女のお嬢さんとまだ小さい男の子だったじゃないのさ。。見た目の割にやけにしっかりはしてたけど、、心配だわ。」

「・・まぁまぁ、払ったのは前金だけじゃねぇか。あとのお代は成功報酬で良いって言うんだしよ、ちょっと様子見ようじゃねぇか。」

「あんたはいつも楽天的なんだから・・・。」

はぁ、と女性がため息をつきながら歩いていく。

 

中年夫婦が歩いて下りてきた山道を上がっていくと、そこには木製の今にも崩れそうな鳥居が立っていて、その鳥居を潜った先には、これまた今にも崩れそうな小さな社殿があった。

もう墨が薄くなり辛うじて認識できるような字で「雨虎神社」と書いてある。
あめとら?あまとら?あまこ?なんと読む神社なのかぱっと見では迷う神社名だ。

社殿の中には巫女姿の女性と、子ども用の紺色の作務衣を纏った男の子の姿があった。

 

「寅子おねえちゃん!初めての雨乞いの依頼だね!!久々のお金だね!!」

歳のころは10歳くらいだろうか。少し気弱そうな優顔の男の子が、興奮気味に言葉を並べる。

 

「小太郎、そんなにはしゃがないの。これはあくまで前金。本命はしっかりと依頼をこなしてからよ。ふふふ。」

寅子と呼ばれた巫女姿の女性は、先ほど中年夫婦から受け取った金封を大事そうに両手で持ちながら男の子に返事をした。

見た目の年齢は18歳くらい、長い黒髪を一つくくりにした姿で凛とした目元が印象的だ。

 

「先代が引退して、長い年月が経ってしまったわ。私にとって初めての雨乞い依頼よ!この依頼を完璧にこなして、人々の話題になって、どんどん依頼を受けて、このおんぼろ神社を再興するわよ!!」

「うぅぅ、おねぇちゃん大丈夫なの?初めてなのに、、あんなに大見得きって『任せてください!!必ず雨を降らせます!』なんて言っちゃったけど・・・。」

「大丈夫よ!!ほんとあんたは心配性ね。私だって毎日修行して、勉強してるんだから。任せなさいって!」

「・・・うん。で、まずは何から始めるの?」

やけに自信満々な姉に気圧されながら、小太郎は寅子に向かってこれからの流れを尋ねた。

 

「まずは、、、依頼のあった地区を管轄している竜神様に会いに行かなくっちゃね。そこで雨呼びの神水をいただいて、その水をその地区の田んぼや池に撒いて儀式を行うのよ。」

「何だか大変そうだね。・・・ぼくも竜神様に会うの?」

「当たり前でしょ!ちゃんと付いてきて、私のサポートをしなさい。」

「・・・はぁい。」

不安そうな顔を隠さずに小太郎がしぶしぶと返事をした。

 

「けれど、本当に今年は雨が降らないわね。何か変な問題でも起きてなきゃ良いけど·····。」

寅子は誰に言うでもなく呟きながら、立ち上がり、社殿の奥へ向かった。

小太郎も後ろからトコトコと付いていく。

 

最奥に祀られた御霊代(みたましろ)の前に二人は並び、二礼・二拍手・一礼の後に正座をして祝詞をあげた。

「高天原に神留まり坐す・・・・・・・・・」

祝詞を唱え始めて数分が経った頃、ふいに二人の身体から力が抜け首がかくんと前に落ちた。

 

 

「ほっ。まずは精神体になるところまでは成功ね。」

寅子も小太郎も、現実世界の座っている身体から精神体が飛び出た、いわゆる幽体離脱状態となっていた。身体と精神体とは細い糸で繋がっている。

 

「わわわわ、浮いてる!ぼくもおねえちゃんも浮いてる!!?」

「大丈夫落ち着いて。って、ちょっと小太郎!あんた人の姿への変化が解け始めてるわよ!」

「わわわ!!何でー?!」

焦る小太郎の足元を見れば、人の足の形をしておらず、うねうねとした軟体動物のような状態になっていた。

「ほら、落ち着いて集中。大丈夫だから。深呼吸して。」

「!!・・・ふうーーーーー、はぁぁぁーーーー。。。。。」

何度か深呼吸を繰り返しているうちに、小太郎の足元は徐々に人の形を取り戻していった。

 

「やっぱり精神体になると、心の揺らぎの影響が直接的に出てくるわね。。」

「ごめんなさい・・・。」

「大丈夫よ、小太郎。けどあんたも早く一人前になれるように頑張りなさいよ。」

「うん・・・がんばります。。」

涙ぐみながらも落ち着きを取り戻した小太郎の頭をぽんぽんと撫でて、じゃあ行くわよと寅子は言った。

 

精神体となった二人はふわりと浮き上がり、社殿の屋根をするすると通り抜け、どんどんと上空へと上っていった。

いつも見ている人の世と重なりながらも、少し様子の違った世界が二人の目の前に広がる。

全体的に光のもやがかかったように見える。

二人には人の世と神の世が重なった状態で見えているのだ。

 

「さてと。お告げによると、竜神様は東北東に向かった先にいるようね。さっそく行ってみましょう。」

精神体での移動は距離や時間といった概念に縛られないようで、一瞬で二人を念じた場所へ運んだ。

 

そこには空に浮かぶ大きな社殿があった。大社造りの立派な神殿である。

入口の前で寅子が礼をして、声を掛ける。

「かの地を治められます九頭龍王様。日照り続きに喘ぐ民草の願いを聞き届け、雨呼びのご神水をいただきたく参上いたしました、雨乞いの巫女にございます。どうか、願いをお聞きいただけませんでしょうか。」

小太郎も寅子に倣い、慌ててぺこりと頭を下げる。

 

どこからともなく「入りたまえ」と低い声が響き、神殿の木製の扉が開いた。

 

二人はしずしずとその扉を潜り中へ入った。

香でも焚いているかのような、甘く馥郁とした香りが空間全体に漂っている。

広い畳敷きの部屋の中央に、竜の鱗を思わせるような輝く衣をまとった男性が現れた。

眼光は鋭いがその奥には慈悲深さを感じさせ、口元に立派な黒いひげを蓄えた、肩幅の広い悠々とした姿である。

 

「よく来たな、雨乞いの巫女よ。」

「お初にお目にかかります。私、雨降らしの一族が末裔、寅子と弟の小太郎でございます。」

「うむ。そなたの一族とは昔からの付き合いよの。とは言え、雨乞いに来たのは随分と久しぶりだがな。」

 

あいさつ代わりにと、これまでにこの神殿を訪れたことのある寅子の祖先の話しなどを重ね、話題は徐々に核心に迫っていく。

 

「それにしても龍王様、今年のこの雨不足は一体何が原因なんでしょうか?この地域だけ一向に梅雨入りもせず、人々が雨不足に喘いでおります。」

 

寅子からの問いに、一瞬、龍王の目が泳ぐ。

 

「・・・あぁ。それはまぁあれだ。何というか、、、この現代において、人々は我ら神をあまり尊い存在と認識せずに敬うこともなくなっておるだろ・・・。我々としてもどんどんと力を削がれていてな・・・。」

「・・はい。私どもの神社も参られる方もおられず、その存在を忘れかけられているような状態で、、、。」

 

やけにしどろもどろな龍王の態度に若干の訝しさを感じながらも、寅子は自分の神社の様子を思い、同意を示す。

 

「そうであろう。何とも由々しき事態であるわなぁ。」

「・・とは言え、龍王様のように祀られているところも多く、人々からの信心も厚い神様であれば、そこまで力が弱っているわけでもないのではないですか。現に今顕現されているお姿も非常に力強くあられますし。雨を降らすことなど、造作もないことでしょうし·····。」

 

龍王と寅子が交わす小難しい話に、早々に飽きた小太郎はあたりをキョロキョロと見回していた。

何かおもしろいものは無いかと探していると、遠く部屋の片隅にこの空間に似つかわしくない色をした物を見つけた。

目を細め、ぐぐぐと焦点を合わせて、それが何であるかを認めた瞬間に叫んだ。

 

「·····あっ!ニンテンドースイッチがあるーーー!!」

『!!?』

 

突然の小太郎の叫びに、話し込んでいた寅子も龍王も驚いた。

楽しそうな物を見つけるや否や、走り出した小太郎を二人も追いかける。

 

3人が立ち止まった部屋の隅には、この場所にはあまりにも不釣り合いなカラフルなゲーム機があった。

「スイッチに、スプラトゥーン2・・・。」

「わぁ!ゲームしたい!!ゲームしたい!!」

無邪気にはしゃぐ小太郎の後にいる龍王の顔はあからさまに動揺しており、額からは汗が流れていた。

 

「・・まさか、龍王様。。ゲームに熱中しすぎて、梅雨入りのタイミング逃したとか・・・?」

「・・・。いやはや・・・。そんなことは·····、、、申し訳ない。。。」

「・・・(クズ龍王め。。)。」

 

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その後、龍王に静かに説教した寅子は、無事に「雨呼びの神水」を龍王から貰い受け、戻ってきた。

後に龍王が語るには、

「まさにトラに射竦められたようだった。雨ふらしの一族は成長するとウミウシからトラに成長するというが正にその通り。。彼女はもう立派なトラだったなぁ。。」

「ゲームに負けた腹いせに人間界にゲリラ豪雨を降らせたこともあると、口が滑ったときの怒りようは凄まじいものであったよ。弟の方はあまりの姉の怒りの強さに変化が解けてウミウシになる始末でな·····ははは。」

と振り返ったという。

龍虎対決、今回は虎に軍配が上がった結果になった。

 

 

「さぁ、さっそく、この神水を依頼主の地区の田畑や池に撒いて、雨乞いの儀式をしましょう。」

「えーーー。ぼくニンテンドースイッチしたいのにー。」

龍王のところから貰ってきた(半ば強引に寅子が奪い取ってきた)ゲーム機を前に、小太郎がぶぅと文句をたれる。

 

「ゲームはまた後で!雨が降ってお金が入ったら小太郎にもご褒美あげるから。ここからはあんたが頼りなんだから!」

 

その言葉に機嫌を直し、小太郎の顔に笑顔が戻る。

社殿を出ようとする寅子に、待ってーと声を掛けながら立ち上がり駆け出す。

 

その後、依頼主であるその地区一番の耕作規模を持った農家の中年夫婦と、その仲間たちが集まり、雨乞いの儀式は厳かに執り行われた。

 

儀式自体を巫女が執り行うわけにもいかないので中年の姿に化けた小太郎が神官として、無事に最後まで勤めあげた。

 

儀式の次の日には、昨日まで雲ひとつないような晴天続きだった空に黒く分厚い雲が広がり、恵みの雨が降った。

無事にこの地域も梅雨入りとなり、田畑や大地に水が染み込み、様々な命を潤した。

 

 

 

「いやー、寅子さん、ありがとう!!効果的面だったよ!週間天気予報まで覆すとは恐れ入った!」

 

雨が降り始めた翌日に神社に訪れた依頼主の男性は、満面の笑みと共に寅子に残りの雨乞い料が入った金封を手渡した。

 

「皆さんの真摯な思いが、神々に通じたのだと思います。」

などと、それらしいことを言いながら笑顔で金封を受け取る寅子。

 

「そういや、寅子さん。今回のこの奇跡みたいな雨乞いをSNSやブログで発信したいって若い奴らが言ってんだけど、良いかね?どこまでのもんか分からねぇが、この神社の人気も出るかも知れねぇってよ。」

 

「えぇ!!それはありがたいです!!どんどん発信してください。」

 

男性からの、思いがけないありがたい申し出に寅子は二つ返事で答える。

 

「分かった!じゃあ若い奴らに伝えるよ!あ、で、今更で申し訳ないんだが、、この神社の名前。雨に虎って書いて何て読むのが正しいのか聞いて欲しいって言われてんだ。教えてくれるかい?」

 

「あぁ、この神社の名前ですね。読めないってよく言われるんですよ。雨に虎と書いてあめふらし。ここは雨虎(あめふらし)神社です。」

 

寅子がにこやかに答えた。

 

 

おしまい

 

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あとがき

どうも、やーさん(@ohokamudumi)です。

Twitter上で企画されている3000文字チャレンジへの挑戦です!!

 

今回のお題は「雨」。

ということで和風ファンタジー風で創作物語を書いてみました!

今年はぼくが住んでいる地域もなかなか梅雨入りせず、雨が降らない中で思いついたお話でした。

ちょうど書き終わった日に梅雨入り。(2019/6/26)

 

少し前からウミウシやアメフラシという生き物に興味があって、調べてる中でアメフラシって漢字だと「雨虎」とも書くんだということを知ったんですよね。

へー、ウシやら虎やら色々出てきておもしろいなぁと思っていたのを、今回の創作に使ってみました。

 

人では無い生き物が人に変化している設定は、完全に最近読んでいる八咫烏シリーズの影響ですね。

そして作中に出てきた竜神様すらハマってしまうゲームの元ネタは、3000文字チャレンジ生みの親のあの人の復活記事からですね(笑)

 

さて3000文字チャレンジセカンドステージ!!

今回は参加者のみなさん、どんな「雨」を書かれているのでしょうか。

 

 

この記事を偶然見てくださったあなた!!

すぐにTwitterで「#3000文字雨」などで検索して読んでみてくださいね!!

きっとたくさんのおもしろい話に出会うことができますよ!!

 

書くのも読むのも楽しい3000文字チャレンジ!あなたも参加してみませんか?

 

 

 

 

やーさん

最後までお読みいただきありがとうございました!

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