【3000文字チャレンジ】猫が開けし御簾より見えたるは·····

【3000文字チャレンジ】猫が開けし御簾より見えたるは·····

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3000文字チャレンジ!! お題「猫」

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桜咲く三月の夕べ、六条院にて。

長い紐を付けられた二匹の大小の猫が、御簾の降ろされた部屋の中でじゃれあっている。

御簾の向こう側では、若い公達が蹴鞠に興じており、位の高い方々も冠の額際を少し弛ませるほどに熱中していた。

何本もの色とりどりの花の木の蕾が開き、桜が舞い散る。

趣のある庭の木立が花霞に包まれている中で、美しく優雅な物腰の男たちが蹴鞠に夢中になる様を、御簾のそばにまで近寄って女たちが眺めている。

 

美しい蹴鞠の姿に人々が惹き込まれているうちに、二匹の猫の内の大きい方が、とてもかわいらしい小さな猫を追いかけ回し始めた。

駆け回る猫に付けられていた紐が御簾に引っ掛かり、御簾の裾が大きく開かれる格好となり、中にいた見目麗しい姫の顔が露わになってしまった。

 

その姫の名は「女三宮(おんなさんのみや)」。

朱雀院の三番目の娘であり、光源氏が中年になってから迎えた幼な妻である。

じゃれる猫の声に振り返るその姿はおっとりとしており、長い黒髪も艶やかで、若くとてもかわいらしい。

 

そして、猫によって開かれた御簾の間より、女三宮の姿を隙見した男がいた。

かねてより女三宮に心を寄せていた男、「柏木(かしわぎ)」である。

(柏木は、光源氏の一番のライバルでもあり親友の「頭中将」の息子。)

 

この一件がきっかけとなり、さらに恋心を募らせた柏木は、せめてあの御簾を開いた猫をと、春宮(女三宮の兄)を通じてその猫を預かり、昼も夜も女三宮の代わりとして愛でていた。

まさに猫可愛がりの様子だ。

 

4年の歳月が流れ、柏木はその間に、女三宮の腹違いの姉である女二宮を正室に迎えるが、恋心は消えることはなかった。

そればかりか女三宮の小侍従(こじじゅう)に幾度と無く相談を持ちかけ、熱心に密通の手引きをお願いする始末。

 

四月も十日を過ぎた頃、賀茂の斎院の御禊の前日、女房たちが明日の準備に追われ手薄になったところ、小侍従の手引きによって柏木はついに女三宮の寝所に忍び込み、無理に一夜を過ごしてしまった。

柏木はさまざまな言葉を掛けるが、女三宮は何も言わず泣くばかりである。

 

この夜から重ねられていく逢瀬で、女三宮は懐妊し、不義の子「薫」が生まれる。

 

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さて、今回の3000文字チャレンジ、唐突に「源氏物語」の一場面から始まりました。

ご存じの通り、源氏物語は平安時代に紫式部によって書かれた日本を代表する古典物語です。

54帖にも渡るその長大な物語では、平安貴族のスキャンダラスな恋愛物語がたくさん出てきます。

主人公である光源氏は帝の子という高貴な身分と、類まれなる美貌、そして様々な才能によって出世街道を歩み、数々の姫君と恋をします。

その恋の中にはスキャンダラスなものも多くあり、その中で苦悩する姿が何とも人間くさかったり、みっともなかったりするのも、源氏物語の大きな魅力の一つだと思います。

 

で、今回の3000文字チャレンジのお題である「猫」がとても重要な役割を担っているお話が、源氏物語の中にあったなぁと思い出し、取り上げてみた次第でおじゃりま、おっと失礼。ございます。

 

冒頭で紹介した場面は34帖若菜(上)・35帖若菜(下)にあります。

この二つの帖は、源氏物語の中でも傑作と名高い帖なんですよ。

 

栄華を極めたように見えた光源氏も中年となり、これまでなしてきたことがオセロのようにどんどんと裏返り、徐々に心に影を落としていく様がこの若菜(上)を起点に描かれていきます。

人生のカルマとでもいうべき、人の心の揺れ動く様が実に如実に描き出されるんですね。

こういった人間の弱さとか儚さをリアルに描き出した物語というのは源氏物語以前にはなく、だからこそ平安の世に新しい文学として受け入れられ、人々をとりこにし、永い時を経て現代までも受け継がれる名作となっています。

 

 

さて話を戻して。

今回の主役は、「柏木(かしわぎ)」と「女三宮(おんなさんのみや)」の二人です。

上記でも触れたように、柏木は光源氏のライバルであり親友でもある頭中将の息子。

女三宮は、光源氏の腹違いの兄である朱雀院の三番目の娘で、光源氏の正妻の一人です。

朱雀院が出家するにあたり、まだ幼い女三宮をどうしたものかと悩み、最終的に光源氏の妻として降嫁させたんですね。

 

あーー、肩が凝るような固い文章はここまでにして、もっと分かりやすいようにここからは砕けた文体でいきましょうか。

 

柏木のことは「かーくん」、女三宮は「三ちゃん」、光源氏は「光さん」とでも呼びましょうかね。

砕けすぎ?ま、いっか。

 

 

えーっと、、、このお話をぎゅっとまとめると、、

 

かーくん、自分の父親の親友である光さんの妻の三ちゃんと無理やりやっちゃって、ついには妊娠させちゃったわけ。

 

ひゃー!!どえらいこっちゃー!!

身も蓋もないーー!!

 

ちなみにこの時、かーくん30歳、三ちゃん21歳くらいです。(光さんは47歳くらい。)

 

 

 

今回のテーマは「猫」なので、もう少し猫にフォーカスを絞って見ていきましょうか。

 

激しい片思いをするかーくんですが、やはり抑えきれないその恋の衝動に駆られたきっかけは、桜舞い散る中で蹴鞠をしている時に、猫が開けた御簾の間から三ちゃんの姿を見たからなんですよね。

 

「桜の下で咲くLove♡」とか言ってる場合じゃないんですよ!コブクロかっ!?ったく!

 

その当時、女性の姿や顔を直接見るなんて機会はなかなか無いんですよね。

顔すら知らないけれど伝わってくる色々な話を聞いて、すでに三ちゃんに恋をしていたかーくんですから、初めて直接そのかわいらしい顔や姿を見て、

 

「やっぱり超かわいいやんけー!!あかん、これはマジで恋に落ちたわー!!」

 

ってなるのも分からないでもないですが、4年という長い月日を片思いのまま過ごすんですよ。

御簾を開けた猫を何とかして手に入れて愛で続け、恋をした相手のお姉さんを妻に迎え入れながら蔑ろにしてまで、、何とも強烈な片思いです。

 

 

で、源氏物語の本文の中でおもしろいなぁと思ったのが、かーくんが三ちゃんを襲っちゃうシーンの表現なんですよね。

三ちゃん襲われてるのに、おもしろいとは何とも不謹慎ですが、、まぁ聞いてくださいよ。

 

かーくんも三ちゃんの寝所に入り込んで、最初はやっちゃう気はなかったようなんですよね。

せめて、その長年の恋心を一言伝えたかっただけのようです。

それは、密通の手助けをお願いしていた小侍従にも約束してました。

「言葉だけ、言葉だけ!手は出さないから!!お願い!!二人きりにさせてよーっ!」て感じで。

 

・・・絶対こんな言葉信じちゃいけないですよね。

 

さぁ、寝所に忍び入って二人きりになるシーンです。

 

光さんが来たと思っている三ちゃん。

ですが、どうも様子がおかしいことに気付きます。

「やだ!なにこの人、光様じゃあない。。何か色々言ってくるけど、恐ろしい。。あ、この人がいつも手紙を寄越してくる柏木という人なのね。失礼な人だし怖い・・・!!」

 

と、声も出せず滝のような汗をかいてふるふると怯える三ちゃんを目の前にすると、かーくんってば

 

「もっと高貴で、馴れ馴れしいことや失礼なことなんかはできないと思っていたが、いやはやなんともかわいらしい!!もう、どうなってもいい!!世間を捨ててしまってでもこの人を盗みたいぃぃぃぃ!!」

 

なーんて、一人燃え上がっちゃって、自分の欲望を止められなくなっちゃったわけ。。。

 

で、さぁいざR-18的なシーンの始まりだ!!と思ったら、次の文章は「少し眠ったかと思うと」なんていう書き出し。

 

はっ??

えっ??

情事的なシーンどこいった?

ってなりますよね。

 

ちょっとじっくり見てみましょう。

 

先の、かーくんの「もうどうなってもいい!」的な心情を綴った次の文を原文のまま書き出すと、

 

「 ただいささかまどろむともなき夢に、 この手馴らしし猫の、いとらうたげにうち鳴きて来たるを、この宮に奉らむとて、わが率て来たるとおぼしきを、 何しに奉りつらむと思ふほどに、おどろきて、 いかに見えつるならむ、と思ふ。」

 

はい、ワケワカメ。

現代語訳すると

 

「少し眠ったかと思うと衛門督(=かーくん)は、夢に自分の愛している猫の鳴き声を聞いた。それは宮(=三ちゃん)へお返ししようと思ってつれて来ていたんだったと思い出して、よけいなことをしたものだと思った時に目がさめた。この時にはじめて衛門督(=かーくん)は自身の行為(=やっちゃった・・・)を悟ったのである。」

 

という感じ。

 

はい、ここでも猫出たー!!!

 

猫によって開いた御簾から燃え上がるかーくんの恋は、ついに自分勝手な欲望を遂げるに至り、その夢の終わりは猫によって告げられたのです。

 

 

でね、かーくんは三ちゃんに、

「あの蹴鞠をしていた夕べに、猫が開けた御簾の隙間からあなたを見たのですよ」的なことを話すんですよね。

 

三ちゃん多分こう思ったでしょうね。

「猫が作った御簾(みす)の隙間に気付かなかった私の失態(ミス)!!」と。

知らんけど。

 

 

さぁ、許されざる一線を越えた二人。

とは言え、自分たちと小侍従さえ黙っていればバレないしまぁ大丈夫だろー。

と思いきや、かーくんが三ちゃんに送った手紙を、光くんが見つけちゃったもんだからもう大変。

 

ってか、ちゃんと手紙くらい隠しておけよなー三ちゃんもさー。

だから小侍従にも舐められるし、光さんにも愛想つかされちゃうんだよー。

 

さぁ、お待たせしました。修羅場の始まり始まり。

「光さんに、三ちゃんと逢ってるのバレたよ・・・」と小侍従から聞かされたかーくん。

 

かーくんからしてみれば、公私ともにお世話になってる上に、更に上位のご身分にあらせられる光さん。。

 

「奥さんに手を出してるのバレちゃったらもう自分の生きていける世界は無いじゃないか・・・」と苦悩します。

もうゲッソリです。

何も手に付かず、何ものどを通らず、ずっと引きこもってます。

 

けど、どうしても出なきゃならなくなった朱雀院の50歳を祝う誕生日パーティーのリハーサルで、光さんとついにご対面ー!!

リハ後の席で、お酒に酔った勢いで光さんからちょっと嫌味を言われて、冷たい目で見られ、途中で帰ってからは臥せてしまい、、、

 

(色々あって)・・・死にます。

 

いやっほい!!すごい展開の早さーーーー!!!!

 

光さんも光さんで、今までの自分の行いも決して誉められたものじゃない(父の後妻さんである藤壺に恋焦がれて、最終的に妊娠させて子(冷泉帝)を産ませちゃった)から、「あぁ、こうして自分の身に返ってくるのかー」なんて震えて落ち込んじゃうし、三ちゃんは光さんの冷たい態度にいたたまれなくなって出家しちゃうし、この時に生まれた薫も自分の出生の秘密に悩むし・・・。

 

ほんと、こういうことしちゃうと誰も幸せにならないにゃー。

こういうドロドロした話好きな人ーー!!ぜひ源氏物語読んでみてねーーー!!!

 

ということで、今回はこのへんで。

 

しかしまぁ、今回は前半と後半の温度差がすごいにゃ・・・。

 

おしまい。

 

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