【3000文字チャレンジ】初雪の降った朝に思うこと

【3000文字チャレンジ】初雪の降った朝に思うこと

『冬が寒くって本当に良かった。君の冷えた左手を、ぼくの右ポケットにお招きする為のこの上ない程の理由になるから』

 

そんな歌い出しで始まる、懐かしい冬の曲がカーステレオから流れたのは、12/25のクリスマスの午後。

 

「全然良くないよ。冬はきらい。寒くて動けなくなるし。」

 

助手席に座っている妻が、時速100kmで過ぎ去る窓の外の景色に目をやりながらぶつぶつと文句を言う。

 

彼女は温暖な地域の生まれのせいか、毎年冬場にはこたつから出られなくなっている姿を目撃する。
そんな姿を見つける度に「あ、こんなところにコタツムリがいる」などと言ってじゃれ合うのがわが家の冬の風物詩でもある。

 

 

視線は前方を走る車を見据えたまま、ぼくは「そだねー。」と返事を返す。

 

ぼくは冬生まれで、雪がそこそこ降る地域の出身でもあるのでそこまで寒い季節が嫌いではない。
むしろ夏より好きだと思っているくらいだが妻がネガティブな感情を乗せて文句を言っている時に、変にこちらの主張を込めた返事をすると話がややこしくなる。

そんな時は「そうだねぇ」と同意して、あなたを理解しているよ、受け入れているよという意志を表現するのが一番である。これは付き合って10年、結婚して6年の経験をもって得た、男女の関係を円滑に運ぶための最適な方法の一つでもある。

 

 

しかし今回の「そだねー。」に関しては1オクターブ上げて声を出したから

「流行語大賞かよっ!!LS北見なのかよっ!?」というツッコミを少し期待したが、そう思い通りにはいかない。

 

 

『~口をとがらせた。思い通りにはいかないさ』

 

流れてきた曲の歌詞と自分の中の想いがリンクして少し笑ってしまう。

 

 

カーステレオから流れているお気に入りの曲はBUMP OF CHICKENの「スノースマイル」。

2002年の発売から16年経った今でも冬が来るたびに聴いては口ずさむ歌だ。

冬の微笑ましい恋人関係を歌っていたと思ったら、最後は別れて一人になるちょっと切ない歌詞。

けれど不思議と寂しさを感じさせない、前向きな別れを歌った曲だ。

 

 

ハンドルに付いたボタンでカーステレオのボリュームを少し上げる。

その音量に反応したのか、後ろのシートで寝ていた長男がもぞもぞと体を動かした。

 

 

少し寝ぼけた声で「もう着くの?」と聞いてくる長男。

 

「うーん、もうすぐ高速は降りるし、そこから30分くらいかなー。」

「おおばあちゃんに最期のありがとう言いに行こうね。」

と両親が声を掛けると「、、、うん。」と答える。

 

 

4歳なりに「人が亡くなる」ということを感じているのだろうか。

 

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妻の祖母が亡くなったのは、12/24のクリスマス・イブの日。

90歳を超え、耳や目は遠くなってしまったとはいえ、大病もせずに最後は自宅で妻の父母に看取られながら安らかに息を引き取ったそうだ。

 

まさに大往生というやつだ。

 

晩年は足を傷めベッドの上での生活を余儀なくされたが、それでも頭はしっかりしていて、いつでも家族のことを第一に考え、気にかけてくれていたおばあちゃん。

妻の実家に行く度に、ぼくにもいつも優しく話しかけてくれて、実家の母の健康までも気にかけてくれた優しい人だった。

おばあちゃんの旧姓はぼくと同じ姓なので、より深い親近感があったのかもしれない。

曾孫11人の内、一番うちの長男が懐いていたこともあり、よく一緒に遊んでかわいがってくれた。

 

 

亡くなった次の日、12/25にお通夜が営まれた。

葬儀会館には通夜が始まる2時間前に着いた。

 

 

たくさんの花に囲まれた祭壇の前。

棺の中で横たわるおばあちゃんはとてもキレイな顔をしていた。

ぼくも妻も「キレイな顔してるねー」と声を上げるほどに。

すっかり白色に染まった髪の毛は美しく整えられ、頬と唇には紅がさされ、一番お気に入りだったという着物を着せてもらっていた。

穏やかな夢を見て、ただただ寝ているだけのようにさえ見える。

だからか、妻はまだ祖母の死を実感できていないようだった。

 

 

長男を抱っこしておばあちゃんの顔を見せてあげた。

 

「おおばあちゃん、死んだの?」

子どもらしいストレートな物言いで現実を言い表す。

 

「うん、亡くなっちゃった。。」

どう伝えたものかと言葉を探すものの、何も言えない大人。

 

 

「夜になったら会えるの?」

 

「・・うん?なんで夜?」

 

「お星さまになった、って、、。」

 

亡くなった人が星になる、なんてことを知ってることに驚いた。

話しを聞くと、どうも妻が「亡くなった人はお星様になって、空から見守ってくれているんだよ」と伝えてくれていた様子。

子どもの純粋さというのは、親などの一番近しい大人のさじ加減ひとつだなとひしひしと感じた。

 

 

「そうだね。遠い空からちゃんと見守ってくれるよ。最期に今までありがとうって言おっか。」

と促すと

「おおばあちゃん、今までたくさんありがと。」と長男。

 

近頃はことあるごとに「いやだ」「やらない」と反抗的な態度をとる長男も、このときばかりはとても素直にちゃんとお別れを言ってくれた。

 

さすがに4歳では、人の死というものがどういったことであるかということを完全に理解しているわけではない。

それでも「もうお話しができない」「ごはんを一緒に食べることや遊ぶことができない」「もう会えない」ということは少しは理解できている様子で、涙を流すところまではいかないものの、ときおり悲しそうな表情を浮かべていたのが印象的だった。

 

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通夜法要の時間が近づくにつれて徐々に親族一同が到着し、近所の方、お付き合いのある方がたくさん弔問に来られた。

 

葬儀は仏式でおばあちゃんに戒名が授けられたのだが、その戒名の中に「聖」という文字があり、
クリスマスの時期に亡くなったからかな?なんて妻と話していた。

 

次の日の告別式ではさらに多くの親戚や弔問の方が集まった。

 

どの方も一様に「おばあさん、キレイな顔してるなぁ」と言っていた。

こんなにたくさんの人にキレイだと言ってもらえて、きっとおばあちゃんも大喜びだろう。

 

ある方が「遺影も良い顔してはるなぁ」と言われたので、改めて遺影を見てみた。

 

遺影に写る姿は、まだ髪を黒く染めていて、頬や体もふっくらとしている頃の写真だった。

 

 

どこかで見覚えのある写真だなぁと思って聞いてみると、ぼくと妻の結婚披露宴の際にテーブル毎で撮影した写真からの切り抜きとのこと。

 

 

通りで見たことあるはずだ。

 

 

人生最後に飾られる遺影に選ばれた写真が、自分たちの結婚披露宴の際の写真で、嬉しそうに微笑んでいるおばあちゃんの顔を見ると胸の内から感情が溢れてきた。

 

それは少しの涙を伴って、心を温かくしてくれる感謝の気持ち。

 

「おばあちゃん、ありがとうございました。そして長い人生、お疲れ様でした。」

そんな言葉が口からこぼれた。

 

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お葬式の式次第も終盤に差し掛かり、棺に花を入れ最期のあいさつをするときには至るところからすすり泣く声が聞こえた。

 

さすがに妻もこの時ばかりは泣いていた。
彼女の悲しみに共感し、寄り添うことが出来て良かったと思う。

 

やんちゃ盛りの曾孫たちは我先にと色とりどりの花を集めて来ては棺の中に花を入れ、あっと言う間におばあちゃんは花まみれになった。

花の色と香りで満たされた棺の中がすでに極楽浄土のようで、とても美しかった。

 

その美しさを閉じ込めるようにして棺に蓋がされた。

 

 

荼毘にふしている間に精進落とし(葬式や法要の後に参列者に対して料理をふるまう会食)があった。

おいしい料理を食べながら、みんなが明るくおばあちゃんの思い出話をしていた。

好きだった食べ物や、嫌いだった物、おもしろいエピソード、おじいちゃんとの恋バナまで。

曾孫たちも緊張感に包まれた葬儀の空気から解放されたからか、楽しそうに大暴れ。

 

そこに漂う雰囲気の中に、淋しさや寂しさはほとんど感じられなかった。

笑顔が溢れるとても良い空間だと感じた。

 

『ぼくの右ポケットにしまってた思い出は やっぱりしまって歩くよ 君のいない道を』

ふとスノースマイルのイメージが頭に流れた。

別れの曲だけれど不思議と寂しさを感じさせない、前向きな別れを歌った曲。

 

みんなが亡くなったおばあちゃんとの別れをしっかりと受け止めて、明日からも前を向いて生きていく。

 

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葬儀の2日後、初雪が降った。

西の山を越えてきた厚い雲から生み落とされた雪がちらほらと舞っていた。

ゆっくりと東の空に姿を現した朝日に照らされて、きらきらと光りを反射させながら、積もることなく風に吹かれている儚げな白雪を眺めていた。

 

生まれ落ちては100年という長く短い時を、その時代時代の風に吹かれながら生きて、露の如く消えてゆく人の命はまるでこの雪のようだ。

 

けれども、たとえ人の命がそんな儚いものだったとしても、
自分の人生の最期に涙を流し、そして笑顔で送り出してくれる人が隣にいることがどれほど幸せなことかぼくは知っている。

 

 

願わくば、いつまでもぼくの隣にいてほしいのは冬が嫌いなあなただから。

冬の寒さを理由にして、君の冷えた左手をぼくの右ポケットにお招きしようと思う。

 

おしまい

 

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あとがき

今回はTwitterの中でこぼりたつやさん(@tatsuya_kobori )が企画されている3000文字チャレンジに挑戦してみました!

今回のテーマは「雪」ということで、そのテーマに合わせて3000文字以上で自由に書くということでしたが、、、。

いやーーーー、難しい!!そしてなんか恥ずかしい!!(笑)

 

先日実際にあった祖母のお葬式のことをどこかに残しておきたいなと思っていたので、この機会にと書いてみました。

 

「別れ」なんだけど不思議と寂しくはないという雰囲気を、BUMP OF CHICKENの「スノースマイル」に乗せて書きたいなと思ったのですが、さてさて思惑通りにいったのでしょうか。

 

こぼりさんのルール説明の中で

・否定&批判コメント禁止! 物好きたちが好きで勝手にやってることです。そっとしておいてやって下さい。もちろん、お褒めのコメントは無限に欲しいです。

というのがありますので、何卒温かい目で見てやってください(笑)

 

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やーさん

最後までお読みいただきありがとうございました!

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