【3000文字チャレンジ】チョコレイト・いずこ?

【3000文字チャレンジ】チョコレイト・いずこ?

あるところにA国という国があった。

その国は島国で資源こそ乏しかったが、貧しくはなく、勤勉、勤労、清廉潔白で曲がったことは大嫌いな国民が多く住む国であった。

 

他国との貿易も、少しでも倫理に違反している噂がある国や物は扱わないといった徹底ぶりだったために、他の国々とは少し違った成長をしていた。他の国々には貿易を通じて一般的に普及している物が、A国にはないことが多かったのだ。

 

とはいえ、テレビをはじめとするメディアは成熟していたし、ネットも普及しており、芸能界やスポーツは人々の娯楽の最もたるものであった。

しかし、清廉潔白な国民たちは、少しでもグレーな噂を流された有名人を無情にも切り捨ててきた。新しいアイドル、ヒーローやヒロインが毎日のように生み出されては消費されていたのである。

 

そのような消費社会に異を唱える者もいないことはなかったが、悪いことは悪いと糾弾することによって自浄作用が生まれるというのが大方の国民の考えだった。

 

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そんなA国に10年以上に渡り、娯楽メディアの第一線で活躍している一人の男がいた。

彼の年齢は30代前半、歌って踊れて、俳優として演技もこなし、アクションもお笑いもできるといった万能な人物だった。

体が資本ともいえる業界において彼の生活はストイックであり、細マッチョを維持するための食事スタイルや筋トレの方法などをまとめた本を出版する程であった。

もちろん顔立ちもいわゆる爽やか系イケメンで女性のファンが多かった。

 

彼は女性ファンから「キャーキャーッ♡」という黄色い歓声を受けるのがとても好きだった。

その歓声を受けることこそが、自分が生まれてきた理由であり生きがいであるとさえ思っていたので彼はファンを大事にしていた。

 

そろそろ特定のパートナーを見つけて結婚することを考え始めても良い年齢にはなってきたと彼自身も思っていたが、この国ではスキャンダルは身を滅ぼすということを重々承知していたので、女性関係には慎重すぎるといっていいほどに気を付けていた。

 

つい先日も主演ドラマで共演した有名女優 I と、打ち上げを兼ねて仲間内で食事会を開いただけで写真を撮られ、あることないことを報道されそうになって事務所が火消しに慌てたばかりだ。

そんなことはこれまでもよくあることであり、慣れっこではあったが、ストレスが溜まることには間違いなかった。

 

 

「そういや、あの飲み会の日に I から何か貰ったんだったけな。」

 

彼は主演映画の番宣で出演したバラエティ番組の撮影から帰ってきて、疲れた体をソファに沈ませながら、部屋の窓際に置きっぱなしにしていた紙袋を見やった。

 

その紙袋は遠目から見てもなかなか洒落ていた。

 

彼は重い腰を上げて窓際まで歩き、その紙袋を手にとった。

 

茶色いブロックが積み重ねられたような背景が全面に描かれ、その中央に金色で洋風の豪奢なロゴデザインが施され、その下に[猪口零糖]という文字が浮かんでいた。

 

「ちょこ、、ぜろとう?いや、ちょこれいとう、、ちょこれーと、か?」

 

紙袋の側面に書かれた[chocolate]の文字で何とか読み方を理解する。

 

「最近発売された新商品なの。疲れた時に食べると効果的よ。ポリフェノールっていう成分がなんたらかんたら~」、なんてことを I が言ってた気がする。

 

ちょうど疲れている今が食べ時かと、さっそく紙袋から取り出してみる。

かわいらしいリボンと包装紙をはずし、紙箱から中身を取り出してみると、黒っぽい茶色をした薄い板状の物が出てきた。

 

紙袋の茶色いブロックが積み重ねられたようなデザインはこれだったのかと彼は納得した。

 

匂いを嗅いでみると何とも言えない深く甘さを纏った香りを感じた。

ブロックの形に沿って程よい大きさに割り、口に入れてみる。

 

一瞬の後、彼の全身に電気が走った。

 

その物体は唾液と混ざり合った瞬間になめらかに溶け始め、脳天を突くような濃厚な甘さと感じたことのないコクのある苦味で口中が満たされる。

 

あまりの美味しさについたため息の、鼻に抜ける香りにすら感動を覚える。

 

彼は震えた。世の中にはこんなに美味しい物があったのかと。

 

気付くと I からもらった[猪口零糖]は包み紙だけを残して彼の前から無くなっていた。

口の中に広がる幸福感を噛みしめながら、彼はネットで[猪口零糖]について検索していた。

 

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検索の結果、猪口零糖は商品名であり、お菓子のカテゴリーとしてはチョコレートという海外由来の物であるということが分かった。

歴史は古く、現在主流の物と形状や味は異なるが紀元前から食べられているものだという。

カカオという実を原料にするのだが、このカカオの生産地では誘拐されてきた奴隷や、幼い子どもたちが強制的に労働させられていたという歴史がつい最近まであり、A国は頑なにカカオやそれを原料とするチョコレートを輸入してこなかったようだ。

 

国際的な大きな機関がいくつも介入し、長い年月をかけて奴隷や児童労働問題を解決し、クリーンなカカオが市場に出回るようになって、ようやくA国でも国産チョコレートが発売されるようになったと記事には書いてあった。

 

記事の下の方には、「チョコレートの効果!」「おいしい食べ方!」「食べ過ぎ危険!」「中毒に注意!」などの文字も並んでいたが、彼は自分には関係のないことだと、ページを閉じてその日は眠りについた。

 

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数日後、彼は生放送の仕事があった。また主演映画の番宣だ。

その番組の中で、「最近出会って感動したモノやコト」に関して聞かれた際に彼は、

 

「ある方からいただいたチョコレートというお菓子がほんとに美味しくてびっくりしました!また食べてみたいですね!もうすぐ誕生日なので、とっておきのを自分で買ってみようかなと思っています!」

 

と答えていた。

 

生放送の収録終了後、番組プロデューサーから「ちょっとちょっとぉ、スポンサーのお菓子メーカーはチョコレート作ってないよぉー。」と苦言を呈された。

 

いつもの彼ならばこんな凡ミスはしない。

よっぽどチョコレートが気に入ってしまったのか、30を越えた大の大人が甘い菓子に夢中になるとはおかしいものだと、自嘲気味に笑っていた。

 

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数日後、彼の誕生日の日。

 

事務所には大きな段ボールがいくつも積まれていた。

全てファンから彼に贈られた誕生日プレゼントだった。

これは毎年おなじみの光景であった。

去年は自身の著書の中で今ハマっているものとして紹介したプロテインやサプリメントなどの筋肉や健康志向のプレゼントが多かったが、今年はチョコレートが膨大なプレゼントの大半を占めていた。

 

中には「愛情を込めて手作りしました♡」と書かれたメッセ―ジが添えられたチョコレートもあった。

 

手作りの物は衛生管理上や、万が一のことも考えて口にしないというのがこの事務所の規則だった。

彼はマネージャーや事務所の人間に「大切なファンから貰った物だから一通り確認して、自分でちゃんと処理するから。」と伝え、全て家に持ち帰った。

 

 

 

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最初に彼の異変に気付いたのは、いつも近くにいるマネージャーだった。

 

彼の誕生日から1か月近くが経っていた。

主演映画も力を入れた番宣のおかげかそこそこの興行収入となっていた。

まとまった休みも取れて、仕事もプライベートも好調のはずなのに様子がおかしいのである。

 

いつもの仕事への集中力がなく、ぼーっとしている時間が増えた。

ドラマの撮影でもセリフ覚えが悪く、アクションにもキレがない。

心なしか体のラインもたるんでいるようだ。

休憩時間の度に、持参したチョコレートを口に入れているのを多くの人が見ていた。

 

 

異変は時間の経過とともにどんどんと深刻化していった。

 

鬱のような症状まで出始め、肌荒れもひどく、しきりに歯を痛がるようになった。

些細なことでイライラするようになり、共演者とのトラブルが目立つようにもなった。

 

「キャーキャーッ♡」という黄色い歓声はいつしか「キャーキャーッ!!」と、彼が引き起こすトラブルから逃げる人々があげる悲鳴となっていた。

 

 

その状況を見かねたマネージャーと事務所の人間は、嫌がる彼を病院に連れて行った。

様々な検査や問診の結果、医師は彼らに告げた。

 

 

「非常に重度のチョコレート中毒です。彼からチョコレートを取り上げてください。」と。

 

 

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どこから情報が漏れたのか、彼がチョコレート中毒であることはすぐに世間に知れ渡った。

「あいつはチョコレートの甘い誘惑に負けた弱い男だ」なんていうレッテルが貼られるようになり、あることないこと様々な噂が流布され、あれよあれよという間にテレビの画面から彼の姿は消えた。

 

チョコレートを取り上げられ、仕事を失った彼の家からはときおり、恨みを込めたようなうめき声が聞こえてくるそうだ。

 

「チョコレートはどこだぁ・・・!!」

 

と。

 

 

 

 

数年後、彼のこのエピソードを皮肉った歌が流行ることになる。

テクノ系の音楽に、独創的なダンスを組み合わせた女性3人組グループが歌う曲で

 

「チョコレイトいずこ♪チョコレイトいずこ♪チョコレイトいずこ♪チョコレイト  いずこ、こ、こ、こ♪」

 

というフレーズがとてもキャッチーだったとか、そうでなかったとか。

 

 

 

おしまい。

 

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あとがき

Twitterの中でこぼりたつやさん(@tatsuya_kobori )が企画されている3000文字チャレンジに挑戦!ということで、今回で2度目の挑戦です!

 

今回のテーマは「チョコレート」。

テーマに合わせて3000文字以上で自由に書くということでしたが、最初は実際に経験したことにちょっとフィクション織り交ぜて恋愛系のお話書いていたんですが、3000文字超えたあたりで何か違うなぁと思い結局全消去。

3日くらい掛けて書いてたんですけどねぇ。。(笑)

 

で、そうこうしているうちに皆さん、すごいおもしろい「チョコレート」のお話投稿していくんですよね。

ほんと色んなスタイルがあっておもしろいんですよ!!

この記事を偶然見てくださったあなた!!

すぐにTwitterで「#3000文字チョコレート」で検索して読んでみてください!!

 

その中でも完全にフィクションで「お話」を書いてる方が何人かおられて、そういうの見てると自分もそっち系で書いてみたいなぁと思いはじめ、書いたのが今回の「チョコレイト・いずこ?」でした。

 

お気づきの通り(?)Perfumeの「チョコレイト・ディスコ」をどうにかして使いたいという一心で書きあげた処女作であります。

 

こぼりさんのルール説明の中で

・否定&批判コメント禁止! 物好きたちが好きで勝手にやってることです。そっとしておいてやって下さい。もちろん、お褒めのコメントは無限に欲しいです。

というのがありますので、何卒温かい目で見てやってください(笑)

 

 




 

 

やーさん

最後までお読みいただきありがとうございました!

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