【3000文字チャレンジ】漆黒の蝶の鎮魂歌ーレクイエムー

【3000文字チャレンジ】漆黒の蝶の鎮魂歌ーレクイエムー
Advertisement

3000文字チャレンジ!お題「勝負」

-------

 

『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』

フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』146節

 

-------

俺のコードネームは「ブラックバタフライ」。

闇夜に紛れて舞う、黒き胡蝶の異名を持つ者だ。

 

俺は親を知らない。

どうせ、どこぞの馬の骨とも分からんような女に拵えられたんだろうさ。

物心ついた時にゃ、鈍い色の照明に照らされた部屋の、貧祖なテーブルの上だった。

右を見ても左を見ても俺と同じような背格好のやつが並んでいやがった。

どいつもこいつも無言で身動き一つせずにな。

 

入れ替わり立ち替わりで部屋に入ってくる人間どもは、俺たちを隅々までチェックして気に入ったやつを買って行くんだ。

クシャクシャの古い札、数枚で俺は買われたよ。

俺の事を買っていったのは日本人の若い女だった。

窮屈なトランクに入れられて俺は海を渡り、日本に来たんだ。

 

 

我が主(あるじ)様となった女は、可愛い顔をした割と几帳面な女だった。

俺にとってそれはとても幸運なことだったのかもしれない。

とは言えこの世界は誰々を「ヤッた」だ「ヤラれた」だの血なまぐさい世界であることには間違いない。

ここから先、お子ちゃまはKeepOutだ。

おしゃぶり咥えて、ママに抱っこされてねんねでもしてろ。

 

 

俺たちはいつも真っ暗な部屋の中に、指定席を設けられたかのように整列させられている。

身体に線でも入ってるかのように、いつも同じような姿勢に折りたたまれて、身動きとれなくされてな。

なに、別に慣れてしまえばそんなに窮屈さは感じない。そんなもんだ。

 

そうそう、先程「俺たち」と言ったが、俺と同じような境遇のヤツらが我が主様の元にはたくさん集っているんだ。その数は両手では数えきれないくらい。

ただ俺のように意識をしっかりと持ってるヤツは誰もいないようだった。

そういった意味では、俺は常に孤独と戦っているのだ。

 

 

この部屋の扉は1日に1~2回開く。

光が差し込んで来て、胸が高鳴る瞬間だ。

開く度に誰かが主様に選ばれて出撃していく。

部屋の前方にいるヤツらは出撃の頻度も高い。

ヤツらは選ばれて出ていくと、2~3日経ってから戻ってくる。

 

 

幾度となく出撃させられるとやはり身はボロボロになり、もう使い物にならないと判断されると容赦なく捨てられる。

古き者は捨てれら、忘れ去られ、また新しい者が入ってくる。

これはこの世界の理だ。所詮俺たちは消耗品なのだ。

明確な意識を持たないアイツらが、それを悲しいこととして受け止めているのかどうかなんていうことは俺には分からない。

しかし、いつか俺にもその日が来ると思うと柄にもなく切なさが込み上げてくる。

 

 

幾度かの入れ替わりを、俺は部屋の一番奥から眺めてきた。

部屋の奥に行けば行くほど出撃頻度の低い精鋭部隊だと思ってくれれば良い。

そのポジションに誇りを持ちながらも、主様になかなか選んでもらえないというのはなかなかツラいものがある。

自分のレーゾンデートルに関わる問題だ。

たまには出撃して主様の役に立ちたいと思うのだが、これは飼い慣らされてしまったモノの歪んだ心理なのだろうか。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

念願の出撃の日は突然訪れた。

いつもとは違う時間に扉が開けられ、まぶしい光が部屋の奥にまで差し込んできた。

我が主様と目が合った、、ような気がした。

「よぉ、我が主様。ご機嫌はどうだい?はっはー!」

緊張しながらも、それを悟られないようにフランクを装い声を掛けてみる。

 

「今日は大事な日。トモヤを落とすには、、、これが良いか。これにあれを合わせて、っと。」

そう言いながら、我が主様の手が俺まで伸びてきた。そして俺を折り畳んだ状態からサッと広げて両足を通した。

瞬間、俺は我が主様と一心同体となった。

 

そう、俺は「勝負パンツ」。

コードネームは「ブラックバタフライ」。
優美なフリルの装飾が闇夜に舞う、黒き胡蝶だ。

 

「今日のターゲットはトモヤというんだな。任せろ、俺が必ずそいつを射止めてやる。」

俺は久々の出撃に武者ぶるいした。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ウキウキしながら、いそいそと準備を進める我が主様。

 

メイクはあくまで薄くナチュラルに抑え、肩まで伸びた少し明るい色の髪をヘアアイロンで内巻きにし、ゆるふわボブに仕上げた。

 

リップは薄めのピンク。春の新色だ。

 

白のセーターに、スキニージーンズというさっぱりとしたコーディネートに、ふんわりとしたムートンコートを合わせた。

 

 

最近のお気に入りの香水「キャロライナ・ヘレラ 212」をその身に振り、都会的で洗練された清潔感と甘さのある香りを纏う。

 

「良いぞ、我が主様。とてもステキなレディの完成だっ!」

「よしっ!これでバッチリ!」

 

聞こえるはずのない俺の声に呼応するかのように、我が主様は鏡で確認した自身の容姿に納得して家を出た。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

少し遅めのランチから始まった、我が主様とターゲット「トモヤ」のデート。

 

会話から知り得た情報では、二人は共通の友人からの紹介で出逢ったようだ。

 

同じ年齢で、家も近く電車で2駅といった距離で、今日で3度目のデートだという。

まだ正確な恋人関係ではない様子・・・?

ある程度大人になると、告白とかなく自然の成り行きで恋人関係になってたなんて噂も聞くが。。

(なんでパンツごときがそんな情報知ってるのかなんて、無粋なことを考えるんじゃあないぜ。そんなこと考える甘ちゃんは、毛布でもチュッチュして温室で寝てやがれ!!)

 

 

おしゃれなカフェでランチを終えた二人は、土曜日の昼下がりの街を散歩しながら、お互いの仕事や趣味の話をしていた。

 

「へぇー、トモヤくん、仕事で海外行ったりもするんだ?」

「ほんとたまにだけどね。年に1回あるかないかだよ。」

「えー、それでも良いなあ、海外。私旅行好きなんだよねー!」

「この前のデートでも言ってたね、旅行好きって。のぞみちゃんは海外だと今までどこに行ったの?」

「うーんとね、色々行ったよ?韓国、台湾、バリ、ベトナム、ハワイ、あとフランスも!」

「すごいね!!そんなに行ってるの!?」

「えへへ、なかなかでしょう?ベトナムなんて一人旅だよ?」

「一人で海外!?危なくないの?」

「全然大丈夫だよ。あ、でもやっぱり好きな人と一緒に旅行する方が安心だし楽しいかなぁ。」

「そっかぁ。・・・じゃあさ、次の旅行は一緒に行こうよ。ぼくが君の旅の安全を守ってあげるよ。」

「えぇ、ほんとぉ?じゃあ~、来月か再来月あたりにお休み合わせてどこか行こっか?」

「よっし!決まりね!!じゃあ、楽しい旅行プラン考えよう!!どこが良いかなぁ。」

「うん!!えっとねぇ、私、次はあそこ行ってみたいんだよねぇ。」

 

二人の楽しいお喋りはとどまるところを知らない。

 

(はっはー!!さすがは我が主様!!めちゃくちゃ良い雰囲気じゃねぇか!!こりゃトモヤの野郎、完全に惚れてやがるぜ!!イケる!こりゃ絶対イケるぜ!!)

 

ディナーは個人経営の小洒落た洋食屋に入り、赤ワインを1本空けた。

洋食屋を出ても、まだ時間は早く夜の9時を回ったところだった。

土曜日の夜の街はそれなりに人出も多い。

 

「この後どうする、のぞみちゃん?明日は仕事お休みだっけ?」

「うん、お休みだよ。まだまだ大丈夫♡」

「じゃあ、もう少し飲もうか?近くにマティーニの美味しいバーがあるんだけど。」

「うぅーん、私お酒あんまり強くないからさっきのワインでけっこう酔っちゃったかもぉ。」

 

(「良いぞ!!我が主様!!必殺・女の『もう酔っちゃったみたいぃ♡』が炸裂だ!!トモヤの鼻の穴が開いてやがるぜ!!はっはーー!!まぁ見えないんだけどな。」)

 

「えっ??そ、そう?・・じゃあ・・・あそこでちょっと休憩しようか?」

「・・・うん♡」

 

二人はきらびやかなネオンの灯る夜の街へ消えて行った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

【ここからは自主規制の為、「ブラックバタフライ」のセリフのみでお楽しみください。】

 

 

「よう、トモヤ。初めましてだなぁ。ああん?!」

 

 

「お前が俺を見てるんじゃねぇ!俺がお前を見てるんだぜ!!分かるか!?」

 

 

「かわいい下着だね?だとぉ?おいおい、もっとボキャブラリー全開で褒めて来いよ!!全力出して来いよ!!」

 

 

「へっへっへ!良いじゃねえか。分かってきたじゃねぇか。」

 

 

「はんっ!そっちはワ○ール社製『抱擁パンツ』か!いいぜ!燃えるぜ!相手にとって不足なしだっ!!」

 

 

「・・・あぁ、やべぇ。我が主様の温もりが消えていく毎に、俺の意識も遠ざかっていきや・・・が・・・る・・・。」

 

ーーーーーーーーーー

 

はっ!!どこだここは!!俺は一体・・・。いや、この温もりは我が主様。

チッ!目の前に抱擁パンツがいやがるじゃあねぇか。ということはここはベッドの中か。

上の方で甘ったるい、ささやき声が聞こえる。

 

「ねぇ、のぞみちゃん。こういうこと言うと無粋に聞こえるかもしれないけど、、。」

「うん?」

「ぼくはしっかりと伝えておきたいんだ。…君のことが好きです。正式に恋人として付き合ってください。」

「うん。嬉しい。ありがと。もちろんだよ。」

「やった。じゃあ今日がぼくたちの記念日だね。」

 

クスクスと二人の笑い声が聞こえる。

 

良かったな!我が主様よ!!イケメン彼氏GETだぜ!!

 

二人の甘ったるい会話は続く。

どうやらお互いを褒めあって楽しんでいる様子だ。

 

 

「トモヤくんさぁ、ちゃんと私の下着とかも褒めてくれたじゃない?あれも嬉しかったんだよ。」

「そうなんだ?」

「うん。なかなか、ああやって褒めてくれる男の人っていないと思うなぁ。優しいんだなぁって感じたよ。」

「そっかぁ。、、変に思わないで欲しいんだけど、何だかね、不思議なオーラみたいなのを感じたんだよね、この可愛いピンク色のパンツからさ。なんて言うんだろう。こっちが見られてる、みたいな?」

 

はっはー!なかなか感度の高い人間じゃねぇか!トモヤ!!気に入ったぜ!

けどピンク色?こいつ何を言ってるんだ?

おれはブラックバタフライ。漆黒の胡蝶だぜ!?

とうとう脳内までピンク色に染まっちまったのか??

 

「えっ!?ほんとに!?、、、やっぱりこのパンツ、特殊な力があるのかなぁー。」

「え、やっぱりってどういうこと??」

 

いや、その前にピンク色ってどういうこと?だろがい!!ああん?

 

「このパンツね、ブラックバタフライっていうとても珍しい黒い蚕から採れるシルクで作られてるんだって。海外旅行先の古いお店で見つけて、とても高かったんだけど不思議と惹かれて買っちゃったの。」

「へー!そんな蚕がいるんだね。蚕なのにバタフライって名前なのもおもしろいけど。」

 

おいおいおい、お、俺はブラックバタフライって名前だけど、黒くないのか??

マジか。アイデンティティが消失していく音が聞こえるようだぜ。。

 

「ねー。そこらへんはテキトーなのかも。でね、そのブラックバタフライのシルクにはね、特別な魂が宿るって現地の人は言ってたの。」

 

「なるほどねー。案外ほんとに宿ってるかもしれないね。きっと可愛らしい妖精さんみたいな魂がさ。そんな気がする。」

 

ははは、さっきの感度の高い人間発言はナシだっ!トモヤ!!

ははは、はは、は、、は、、、。

えぇーーー!!!!!俺、ピンク色なのーー?!

マジでかよーー!!やだよーーーー!!!

前半めっちゃハードボイルドチックに語ったじゃんよーー!!

 

何なの!?ピンク色の超かわいいパンツが

「俺は親を知らない」

とかカッコつけて語ってるとかマジでないわー。。

 

紛らわしい名前つけんじゃねぇよーーーー。。

俺、これからどうやって生きていけば良いんだよ。。

なぁ、だれか教えてくれよ。

あぁ、モーツァルトの「レクイエム」が聞こえてきやがった。

 

「あ、電話。。」

「出なくて良いの?」

「良いの、良いの。地元のツレからだし。」

 

何だよ!トモヤのケータイの着信メロディ、なんで「レクイエム」なんだよ!?

どんなセンスだよっ!!?

のぞみ!!そんな男やめとけっ!!

あっ!!勢いでのぞみって言っちゃった!!

いや、もういいや。。

「我が主様」とか、ピンク色の俺が言ったところで全然かっこよくない。。

 

・・・・はぁ。。。もういっそ、全部脱ぎ捨ててキャラ変えていこう。。

それしかないや。

裸になってさ、一からやり直しだ。

脱ぎ捨てるのは簡単だ。パンツだけにね。なんてね。はは。。

 

ーーーーーーーーーーーー

ー2日後ー

「洗濯もの畳まなくっちゃ。」

のぞみは数枚の洗濯ものの中から、一枚のピンク色のパンツを取り上げて、微笑んだ。

 

「トモヤと結ばれたのも君のおかげかな?ありがとね。」

 

「うふふ、そうね。私のおかげよ。なーんてね。いつも大事に扱ってくれてありがとう。これからものぞみの幸せを願ってるわ。タンスの一番奥でね。でも、たまには外の世界へ連れ出してね。」

 

光沢感のあるピンク色の生地が一瞬キラッと輝いたような、そんな気がした。

 

 

おしまい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

※この物語は1000%妄想で書かれたフィクションです。

※ちなみにブラックバタフライなんて蚕はいませんからね。創作です。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

あとがき

 

どうも、やーさん(@ohokamudumi)です。

Twitterの中でこぼりたつやさん(@tatsuya_kobori )が企画されている3000文字チャレンジに挑戦!

ということで今回も3000文字チャレンジに挑戦してみました。

今回のテーマは「勝負」。

 

テーマに「勝負」が決まったときから、頭の中には「勝負パンツ」がぐるぐるしてたんですよね。

でも勝負パンツなんて持ってないし、そんなエピソードも自分の中にはなかったので、どうしようかと悩んでたところ突然降ってきました、アイデアが。

 

「ハードボイルド×勝負パンツ×魂の浄化」というキーワードが降ってきた瞬間のツイートがこちら↓

 

もうね、発狂レベルですよ(笑)

読んで少しでも楽しんでもらえると幸いです。

 

 

さて3000文字チャレンジもどんどん参加者が増えて盛り上がりを見せています!!

今回は参加者のみなさん、どんな「勝負」を書かれるのでしょうか。

書くのも読むのも楽しい3000文字チャレンジ!あなたも参加してみませんか?

 

 

この記事を偶然見てくださったあなた!!

すぐにTwitterで「#3000文字勝負」「#3000文字チャレンジ」などで検索して読んでみてくださいね!!

きっとたくさんのおもしろい話に出会うことができますよ!!

 

 

最後に、こぼりさんのルール説明の中で

・否定&批判コメント禁止! 物好きたちが好きで勝手にやってることです。そっとしておいてやって下さい。もちろん、お褒めのコメントは無限に欲しいです。

とありますので、何卒温かい目で見てくださいね。

 




 

やーさん

最後までお読みいただきありがとうございました!

この記事が気に入っていただけましたら下のボタンから共有お願いします!