【3000文字チャレンジ】彼と、私と、あだち充と。

【3000文字チャレンジ】彼と、私と、あだち充と。

3000文字チャレンジ!! お題「あだち充」

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「ミナミさぁ、彼氏と別れたんだって?」

「そうなの。。。先週別れたばっかり。聞いてよ~ヒカリ~。」

「お~、よしよし。聞いてあげるよ~。ツラかったねぇ~。」

「ふぇ~~~ん。ありがとぅ~~。」

 

柔らかく午後の日差しが差し込む、おしゃれなカフェの片隅から話声が聞こえてくる。

向かい合わせで座った女子大生同士と思わしき二人連れが、カフェオレに差し込まれたストローをくるくると遊ばせながら失恋話に興じていた。

 

ミナミと呼ばれた女の子はふんわりとした黒髪ボブで、目もぱっちり大きくかわいらしい。

対照的にヒカリはキリッとした面立ちで、肩まで伸びた艶やかな髪とつるんとしたおでこが印象的だ。

 

「ミナミの彼氏って、何て言ったっけ?上杉・・・は違うか。若松・・・ん?新見くん?だっけ?あ、いや大和くん・・・いや、、国見くんだったっけ?」

 

「ちょっと、ヒカリ~!?間違えすぎ!!安達くんだよ!!安達ミツキくん!!」

 

「あ、そうだったそうだった。ミツキくんだったね。そうそう、思い出した。ミッキーとかミッくんとか呼ばれてるって言ってたよね?」

「そう!ミッくん。身長がとても高くて、ちょっとハーフっぽい顔のイケメンなの。ハァ・・・一目惚れだったんだよぉ。・・・かっこよかったなぁ・・・ミッくん。うぅぅうぅぅ・・・。」

「あぁあぁ~、泣かないの~ミナミ~。ほら、マスカラ落ちちゃうよぉ。」

「ウォ~タ~プル~フゥ~~だからぁ~。うぅぅ~。ぴえん。」

 

ヒカリが苦笑しながらテーブルの上の紙ナプキンをミナミに手渡す。

 

「で?そのイケメンのミッくんと何で別れちゃったの?」

「・・・うん。聞いてくれる、ヒカリ。」

 

ミナミは涙を拭いながら、つとつとと話し始めた。

 

ミナミは外国語大学で英語科を専攻している大学3回生だ。

ヒカリとは高校時代からの友人である。

 

ミツキは違う大学に通う1つ年上の先輩で、出会いは半年ほど前に共通の友人が主催した合コンだった。

4対4の合コンで集まった男性陣の中で、ミツキは圧倒的にルックスが良く一番人気だったのだが、ミナミは並み居るライバル達を押しのけて彼のハートを掴まえた。

 

「ミナミ、彼と付き合った時、興奮気味に電話してきたもんねー。”イケメンつかまえたよー♡”って。」

「うん!あの時は色んな女の武器を使って彼の心を射止めた!!私の魅力で彼を掴まえた!って思ってたの。」

「・・・違ったの??」

「・・・うん。たぶん。」

 

汗をかいたグラスからストローで一口、カフェオレをのどに流し込んでミナミは言葉を続けた。

 

付き合い始めの頃は、どこに行くのも何をするのも一緒にいるだけで、嬉しい!!楽しい!!大好き!!の初々しいカップルそのもので、例の合コンで一緒だった女性陣からは「ドリームがトゥルーにカムしたリア充め!爆発しろ!」などと言われていた。

 

ミツキの性格は優しくて、けれど少しクールで口数は少ないタイプだった。

顔の彫りは深いけれど、愛の言葉の少なさは平たい顔族である日本人のそれと変わらなかった。

 

「そりゃそうよ、100%日本人なんでしょ??」とはヒカリの言葉だ。

 

一緒にいるだけで幸せを感じていたミナミだったが、確かな「言葉」が欲しいと、ある日この言葉を口にしてしまった。

 

『ねぇ?ミッくんはわたしのどこがスキ~?』

 

するとミツキは即答でこう言った。

 

『ミナミは名前がステキなんだよなぁー。』と。

 

名前・・・?ミナミっていう名前がスキなの?と、ミナミが訝しがりながら問うと、目がかわいいとか優しいところ、お菓子作りが上手なところ、とか色んなことを言ってくれたけど、そのどれもが全部後付けのような印象があったのだという。

 

 

「へぇ~、ミナミっていう名前にそんなに思い入れがあったんだ、彼。・・・名前を褒めてもらうのって嬉しいけど、そこがスキってちょっとズレてるっていうか、何だか失礼な話ね。」

 

ヒカリが頬杖をつきながら、微妙な面持ちで口を開く。

 

「うん。そこが初めて彼の言動で引っ掛かったところだったの。ミナミっていう名前はよく呼んでくれて、嬉しかったんだけど・・・実はそれには理由があったの。」

 

「理由・・・?」

 

「うん。。彼ね、、、実はあだち充マンガの大ファン・・・ううん、ファンを超えてマニアだったの。」

 

「あだち充・・・ってあのタッチとかH2の作者の?」

 

「うん、それ。その、あだち充。ヒカリよく知ってるね。あたし全然知らなくて・・・。」

 

「いや、私もちゃんと読んだことはなくて。父親が好きで家にマンガはあったから・・・。って、それでミナミ!?タッチの浅倉南と同じ名前だから、ミナミと付き合ったって言うの?!」

 

ヒカリの体の動きに合わせて机が揺れ、グラスの中の氷がカランと音を立てた。

 

「うーん、それだけで付き合ってくれたなんて思いたくないんだけどぉー・・・。ちゃんと愛してくれてたとも思うんだぁー。付き合ってる間、ずっと優しかったしぃ・・。」

つい先日まで彼氏だったイケメンとの思い出を頭に浮かべながら、ミナミはウルウルと瞳を潤ませた。

 

「まぁ、そりゃさすがにマンガのヒロインと同じ名前だったってだけで付き合う男もいないか。で、マニアな彼との間に、それからどんなことがあったの?」

 

「うん。他にはね~・・・」

 

ミナミは中空に目を向けながら、ミツキとの思い出を語っていった。

 

彼があだち充ファンだと分かったのは、”名前がスキ事件”のあった後、ミナミとの初キスの時だったという。

 

その日、ミツキは飲食店のバイトでミスをしたとかで、珍しく落ち込んでいた。

バイト上がりの彼の家に遊びに行ったミナミは、落ち込んでいる彼を慰めようと色々と話し掛けていたが、なかなか有効打を出せずにいた。

 

なかなかテンションを上げてこないミツキに対して、ミナミはもう少し積極的にいってみるかと思い立って『何かしてほしいことある~?』と甘く囁いてみた。

すると、ミツキは

『そうだな・・・こんな時やさしい女の子なら・・・・黙ってやさしくキスするんじゃないか・・・』

と言い、ミナミはそのセリフにデレながら彼と初めてのキスを交わしたという。

 

 

 

「それって、タッチでたっちゃんと南がキスする時のセリフじゃん!!二段ベッドの上の段で!!」

「ほんとヒカリ、詳しいね。私、全然知らなくてちょっとキザだなーって思ったけど、それ以上にキュンってきちゃって・・・。」

 

はぁ、と嘆息するヒカリだったが、そのままミナミに話しの続きを促した。

 

そのまま、ミツキの部屋にお泊りすることになったのだが、偶然見てしまったクローゼットの中に、彼の知られざる世界を見つけたのだという。

 

「クローゼットの中にね、ぎっしりと並んでたの。あだち充のマンガとかアニメのDVD?とか、サイン色紙とかグッズとかもう色々!!逆にあだち充以外の作品は何も無かったと思う。」

「Oh・・・.」

 

なぜか外国人のような反応を見せたヒカリだったが、普段から外国人講師と話し慣れているミナミは特に意にも介さず話を続けた。

 

クローゼットの中を見たミナミは、ミツキに『あだち充ってミッくんと名前似てるねー。好きなんだぁ?』と問いかけた。

その言葉をきっかけに、普段のクールな彼からは想像もできない程の熱量で延々とあだち充作品のすばらしさを語られたという。

 

 

「せっかく甘い夜を期待したのに!!深夜3時まであだち充の話だったんだよ。色んなマンガのページを開いて説明してくれるんだけど、どのマンガも登場人物の顔が一緒なの!」

「あはは。まぁ、それがあだち充流だからしょうがないわよ。」

 

「でね、私も彼の好きな物を知りたいと思って、タッチ全巻読んで勉強したの!」

「ふふふ、えらいえらい。彼も喜んでくれたんじゃない?」

 

「うん。けどね彼がデートに誘ってくれて、”ミナミどこ行きたい?”って聞いてくれて。」

「うんうん。」

「で、私、あ!これは!!って思って。」

「うん。」

「”甲子園に連れてって!!”って言ったら、ミッくんに”それは違う”って言われちゃったの!冷たい目で!ねー、酷くない!?」

「あはははは!すごい空振りしちゃったんだね。」

 

ヒカリはお腹を抱えて笑っている。

その姿を見て、ミナミは頬を膨らませた。

 

「はぁ、笑ったぁ~。ミナミそういうとこあるもんね。天然ていうか、よく空回るというか。それで、別れる原因は何だったの?」

「えー?!そうかな~?・・・うん、別れるきっかけになったのはたぶん・・・」

もう氷が溶けて、水っぽくなってしまったカフェオレを眺めながら、ミナミは彼との最後の思い出を語り始めた。

 

ミツキとミナミが付き合い始めて半年が経ち、以前のような嬉しい!楽しい!大好き!期間も落ち着いて最近ではお互いの欠点にも目が届き始めたという。

 

「ミッくん、ルックスが神だから、やっぱりモテるしさ。他の女の子にも言い寄られてるっぽかったんだよね。あと、話の話題がほんとにあだち充作品の話ばっかり。最近は”MIX”ってマンガの話しかしなかったんだよー。」

 

と不満を漏らしながら、彼との最後のデートを回想する。

 

最後のデートは夜景がキレイな港街。

二人は昼間は映画を見て、話題のスイーツを食べ、おしゃれな雑貨屋巡りをして楽しい一日を過ごした。

デートのラストは美しい夜景を眺め、二人は良いムードに包まれ、ミナミはミツキに抱き締められた。

 

「そこでね、彼がこう言ったの。”I love you.違うかな、発音?”って。」

「あー・・・。で?」

「ちょっと発音がおかしかったから直してあげたの。
I Love you.”だよ?アクセントの位置がちょっと違うよ?って。そしたら、そこからなんだかギクシャクしちゃって、、、。”ハルカならそんな風には言わない”とか他の女の名前とか出してきて、ケンカになっちゃって、そのまま・・・。うぅぅぅ。」

 

「あーーーー。それは、、何というか。。ミナミのKYさに彼も気の毒というか、、いやマニアな彼が悪いね。自分の言葉で語れない男なんていくら顔がカッコいいからって、やめといた方が良いと思うよ。」

 

「うぅぅ???・・・何?どういうこと?」

 

「うーん。そうねぇ。・・・答えはね、H2の26巻にあるよ。」

 

「へ???」

 

陽あたり良好なカフェの中、全く意味を解せず首を傾げるミナミと、いたずらっぽく笑うヒカリの姿がそこにあった。

 

 

おしまい。

 

 

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