【3000文字チャレンジ】愛しの君のフレグランス
3000文字チャレンジ!お題「フレグランス」
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「はぁー。石原さとみに会いたいなぁー。」
「は?リョウタ、あんた、まだそんな事言ってんの??高校受験来週だよ?大丈夫なの?!」
「るせーなぁ。大丈夫だよ!!、、きっと、たぶん。。。そういうアカリこそ大丈夫なのかよ!?」
「私?私はあんたと違って成績優秀だし、内申点も高いし、美人だし?全く問題ないわよー。」
「はいはい、言ってろ言ってろ!委員長様っ!だいたい受験に美人かどうかは関係ねぇだろ。」
30分に1本しか電車が来ないような、のどかな田舎の無人駅。
ベンチに横並びに座った制服姿の男女が喋っている。
見る限り2人は恋人同士というわけでもなさそうで、幼なじみの腐れ縁といった感じだ。
女の子の名前はアカリ。
手足がスラリと長く、黒い艶やかなロングヘアーで、中学3年生にしては大人っぽい雰囲気だ。
そしていかにも頭の良さそうな凛とした顔立ちで、手には読みかけの分厚い本を持っている。
対して男の子の方はつんつんととがった髪型で、左耳には閉じかけたピアスの穴が見てとれた。
名前はリョウタ。少しやんちゃそうな雰囲気だが、ぱっちりとした二重まぶたのかわいらしい目をしている。
身長はアカリのほうがリョウタより少し高そうだ。
「で?何だってそんなに石原さとみが良いのよ?キレイな人だけど30過ぎてるし。あんた熟女好きなの?」
「はぁ?年齢なんて関係ねーんだよ!あんなに可愛い人いねーだろ!!女優として、時に少女のようにかわいく、時に妖艶なまでに美しく、どんな表情も俺のハートを鷲掴みにしてくんだよ、さとみは!」
アカリはケラケラと笑った。
「さとみって呼ばないでー!笑い過ぎてお腹いたいー!けど、妖艶な、なんて言葉よく知ってたね?」
馬鹿にされてるのを感じ、ムッとしながらもリョウタは答える。
「。。さとみのことは勉強してんだよ。雑誌に書いてあったんだ。」
「·····おいおい、君は何を勉強してるんだい?私たち受験生なんだよ!?バカなの!?死ぬの!?」
「っせーよ!!受験勉強もちょっとはしてるっての!!·····けどよぉ、どんな時にもさとみが頭に浮かんで集中できないんだよなぁ。」
「そんなに、、なの、、、?」
「おれの愛はマジだぜ。あーぁ、顔や姿はテレビの画面を通して見れるし、声も聞こえる。けど触れないんだよなぁ。まぁもし触れたら俺たぶん気絶しちゃうね、感動で。」
「うん。何言ってるんだろうね、このバカは。ねぇお願い、バカは黙って。黙れバカ。」
アカリの願いも空しく、バカは黙らない。
「せめて、さとみの香りとか感じられたらなぁ。きっと良い香りなんだろうなぁ。。」
「、、、キモイなぁ。はいはい、いつまでもバカみたいな夢見てなさいよ。」
リョウタの惚けた顔をジト目で見やりながら、アカリは呆れたようにため息をついた。
「君のその願い、叶えてあげようか。」
ベンチの後ろ側から不意に掛けられた太い声に、二人はビクッと肩を震わせた。
二人同時に声がした方に顔を向けると、そこには白衣姿の長身の男性が立っていた。
年齢は40歳前後だろうか。少しこけた頬に無精ひげがうっすらと生えてはいるが、髪は短くきれいに整えてあり、端正な顔立ちでもある。
しかしこの何もない田舎町で、見かけたこともない白衣姿の男に二人は怪しさを感じていた。
「な、、なんだよ、おっさん?」
「おいおい、初対面の人におっさんとは失礼だな。まぁ、そうだな。君たちから見れば十分おっさんか。私は香りの探究者であり発明家でもある。名は岡部という。」
「発明家の岡部、、さん、、?さっき願いを叶えてくれるって言ったけど、さとみに逢わせてくれるのかっ?!」
「(ちょっと、リョウタ、やめなよ。絶対怪しいよ!)」
突然声を掛けてきた男の怪しさよりも、石原さとみへの憧れで目をキラキラさせるリョウタと、そのバカを止めようとするアカリ。
そんな二人の様子を見ながら、岡部と名乗った男はおもむろに脇に置いていた大きなジェラルミン製のケースを重たそうに持ち上げてこう言った。
「ははは、逢わせることは出来ないけど、彼女の香りを疑似体験させてあげることは出来るよ。」と。
「さとみの香りを、、疑似体験・・??」
「そう。もちろん石原さとみの本当の香りなんてここにいる三人とも知らないから、本当にそんな香りがするのかは分からないけどな。」
「、、は?なんだよ?どういうことだよ?」
岡部はニヤリと笑みを浮かべ、ジェラルミンケースを指さしながら言った。
「このケースの中には千種類以上に及ぶ世界中の様々な天然香料や化学合成香料が詰まっているんだ。そして世界中の香水やフレグランス製品のレシピが解析され、インプットされている。」
岡部はベンチの裏側から、二人の座る方へ回ってきた。その行動を目で追いかける二人。
岡部はベンチの空いたスペースにケースを横向きに静かに置き、ストッパーをパチンと解除して二枚貝を開けるように開いた。
てっきり色んな液体や香原料がたくさん入っているのかと思いきや、そうではなかった。
ジェラルミンケースの中はふた側にディスプレイやさまざまな計器があり、下側には小さなキーボードや小さな瓶がセットしてある窪みがいくつかあった。その他にも色々なギミックが隠されているような作りとなっていた。
キーボードやディスプレイの裏面に千種類以上もの「香り」の素材が仕込まれているのだろうか。
「メローネのベイビィフェイスみたい・・・。」
「ん?アカリ何か言ったか?」
「!?ううん、何でもない!!」
怪しがっていたアカリも大きなノート型パソコンのようなジェラルミンケースの登場で、心を奪われつつあるようだ。(彼女はジョジョの奇妙な冒険の大ファンなのだ。)
「いいかい。私が発明したこの機械[エイトミリオン フレグランス]はこの中に入っている様々な香りを自動調合することで、どんな香りも再現することが出来るんだ。この場所に来た理由も、ここでしか採れない貴重な香料があってね、それを採取しに来たんだ。」
「つまりは、この機械で石原さとみさんの香りを再現してリョウタに嗅がせるってことですか?」
「その通り、賢いお嬢さん。」
「???」
リョウタは話に付いてこれていないようだ。
「けれど岡部さん、『石原さとみさんの香り』なんてレシピが登録されているんですか?」
「ははは、まさかそんなレシピはないよ!!だから本当に彼女がこんな香りがするかどうかは分からないけれど、彼女が使っている香水なんかの香りは再現できるよって話だ。」
「おぉ!!なるほどな!!分かってきたぜ!!おっさんすげーな!!」
話しに追いついてきたリョウタの目がさらに輝きを強くしていた。
そして目を閉じて何かを思い出そうと考え込み始めた。
「えーーーっと、さとみの使ってた香水なんだったけなぁ。何かで読んだんだよな。。キャロラインなんとかで数字が入ってたような。うーーーん。。」
「あんた、記憶力も微妙ね。好きな女の人の香水の名前くらい覚えておきなさいよ。」
「うぐぐ。。」
「大丈夫だ。これで検索もできるよ。・・『石原さとみ』『香水』っと。」
岡部は[エイトミリオン フレグランス]の電源を入れて検索を始めた。
Wi-Fi対応でネットまで出来るとはなかなか便利なアイテムだ。
google検索で、いとも簡単にお目当ての香水は見つかった。
「キャロライナヘレラ 212 オードトワレ か。」
「そうそう!そんな名前の香水だった!」
「よし!では、この香りを再現してみようか。」
岡部は[エイトミリオン フレグランス]を操作し、インプットされているキャロライナヘレラ 212のレシピを呼び出した。
画面には次のように表示されている。
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『香調はライトフローラル。
トップノート : ガーデニア、サボテンの花、ベルガモット
ミドルノート : ホワイトローズ、カメリア、ホワイトリリー、レースフラワー
ラストノート : ウッド、サンダルウッド、ムスク
その香りは、都会のシャープさと女性らしいソフトな甘さを兼ね備えた香り。
上品でありながらセクシー、シンプルでありながらフェミニン、エレガントでありながらクール。』
ーーーーーーーーー
岡部は内容を確認して、【調製開始】のボタンを押した。
すると、[エイトミリオン フレグランス]は静かな駆動音を立て始めた。
「今、内部に収納されているさまざまな香料がレシピに基づいて自動調合されているんだ。1分もあれば出来上がりだ。」
岡部の言った通り、1分もしないうちに[エイトミリオン フレグランス]のキーボードのとなりの窪みにセットされていた小瓶の中に、ほんの少量の液体が注入された。
岡部はその瓶を取り上げて、リョウタに手渡した。
「さぁ、夢にまで見た愛しの君のフレグランスだよ。」
「(ごくり)こ、これがさとみの纏う香り・・・!」
リョウタは緊張した面持で小瓶のフタを開けて、鼻を近づける。くんくん。
「ふぁぁぁ~、良い匂いだぁぁぁぁ。甘い石鹸?爽やかな花とか木の香り?何だかうまく言えねぇけどとても良いぃぃ。都会の香りがするぅ。これがさとみの香りかぁぁぁ。」
香りを嗅いだリョウタは恍惚の表情だ。
「そんなに良い香りなの?ちょっと私にも貸して。」
「ん。」
アカリはリョウタから小瓶を受け取り、鼻を近づけた。くんくん。
「あ、ほんとに良い香り!!セクシーさもあるしクールな感じもする。上品な甘さも感じるわ。岡部さん、これって肌に付けても大丈夫なの?」
「あぁ、もちろん問題ない。香水は肌に付けることによって体温で温まってまた違う香りが出てくるからね。」
アカリは瓶の口に左手首をくっ付けて逆さにし、そこについた液体を右手首にも移そうとした。
その様子を見ていた岡部が口を開いた。
「手首に付けた場合は、あまりグリグリと擦らないようにね。」
「えっ?そうなんですか?香水をつけるときって、こうやって手首を合わせてグリグリするものなんだと思ってました。」
「そうなんだよ。それは間違った付け方なんだ。香りの粒子が潰れて本来の良い香りが出ないからね。」
『へぇぇー。』
アカリは香水をつけた手首の香りを嗅いだ。
「うん、良い香り。瓶から直接嗅いだ時よりも華やかになった感じがするわ。けどちょっと強いかな。」
「香水は付けてから30分後くらいにミドルノートと呼ばれるその香水本来の一番良い香りが出てくるからね。今香っているのは強く香るトップノートなんだ。」
『へぇぇー。』
その後は香水に使われている香料に関しての話で盛り上がった。
ムスクは麝香鹿と呼ばれる鹿の雄だけが生み出す超高級香料で、乱獲によって絶滅危惧種になってしまったとか、高級なローズオイルは1ccのオイルを抽出するために約2600本のバラが必要だといった話がされた。
リョウタもアカリも岡部の香水談義に感心しっぱなしだ。
時間はあっという間に経ち、遠くから電車が近づいてくる音が聞こえる。
「おっと、そろそろ電車が来るな。その香水は君たちにあげるよ。今回は特別サービスだ、無料にしておくよ。」
「え!!良いのか!?やったぜ!ありがと岡部さん!!」
「楽しかったです。ありがとうございました。」
「また、何か香りのことで相談したいことがあったら、ここに書いてある連絡先までどうぞ。」
岡部は二人に名刺を渡し、[エイトミリオン フレグランス]のフタを閉じて、ホームに入ってきた電車に乗り込んだ。
リョウタとアカリはホームから手を振り、岡部の乗った電車を見送った。
岡部の乗った電車の姿も見えなくなり、二人はまたベンチに座って話しながら電車を待った。
ようやく電車が遠くに見えてきた。
その時、アカリが自身の手首を鼻に近付けて言った。
「あ、香りが変わってきたわよ。」
「ん?ミドルなんとかになってきたのか?嗅がせて嗅がせて!」
アカリの伸ばした手をとって、鼻を近づけるリョウタ。
彼女の体温と華やかな香りが鼻腔をくすぐる。
いつも近くにいたアカリが、今は違う女の子に見えたような気がして、リョウタの胸は鼓動のリズムを早めた。
「ん?どうかしたリョウタ?変な顔して。良い香りするでしょ?」
不思議な表情をしたリョウタに、笑顔で話しかけるアカリ。
その胸の高鳴りに恋という名前が付くのは、もう少し先のことだった。
見渡す限り何もない小さな田舎の駅のホームに、甘く爽やかな香りが広がっていた。
おしまい。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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あとがき
どうも、やーさん(@ohokamudumi)です。
Twitterの中でこぼりたつやさん(@tatsuya_kobori )が企画されている3000文字チャレンジに挑戦!
ということで今回も3000文字チャレンジに挑戦してみました。
今回のテーマは「フレグランス」。
妄想全開で創作系ショートストーリーを書いてみました。
身に纏う香り、空間に漂う香り、好きな人の香り。
香りってほんと多種多様で、どんな香りや場面を切り取ろうかと考えた結果、若い男女と怪しいおじさんが出てくるほのかに恋を予感させる、余寒の時期の物語となりました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
石原さとみさんの香りというのは、以前自分のお気に入りの香水の記事を書いた時に調べたことがあったので、その情報を再利用しました(笑)
こちらの記事もあわせてご覧いただけると嬉しいです。
「キャロライナヘレラ 212 オードトワレ」はこちら↓
さて3000文字チャレンジもどんどん参加者が増えて盛り上がりを見せています!!
今回は参加者のみなさん、どんな「フレグランス」を書かれるのでしょうか。
書くのも読むのも楽しい3000文字チャレンジ!あなたも参加してみませんか?
公式Twitterはこちら→3000文字チャレンジ公式アカウント
この記事を偶然見てくださったあなた!!
すぐにTwitterで「#3000文字フレグランス」「#3000文字チャレンジ」などで検索して読んでみてくださいね!!
きっとたくさんのおもしろい話に出会うことができますよ!!
最後に、こぼりさんのルール説明の中で
・否定&批判コメント禁止! 物好きたちが好きで勝手にやってることです。そっとしておいてやって下さい。もちろん、お褒めのコメントは無限に欲しいです。
とありますので、何卒温かい目で見てください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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