【3000文字チャレンジ】あの人の運命を変えた井戸端会議

【3000文字チャレンジ】あの人の運命を変えた井戸端会議
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3000文字チャレンジ!お題「井戸」

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「あら~、みのりさーん。お買い物行ってきたのー?」

「そうなんですー。今日はたまごが安くて。ひとえさんは今からスーパーですか?」

平日の昼下がり、のどかな田舎町。

車もあまり通らないような狭い三叉路の脇に「お地蔵さん前」と呼ばれる、約3m四方の狭いスペースがあった。その名の通り、芝生がちょろちょろと生えたスペースの一番奥に設置された小さな祠の中に、赤い前掛けをしたお地蔵さんが祀られている。

町内に住む人たちの共有スペースとして使用されているその場所は、そこを行き交う人々が少し足を止めて立ち話しをするにはとても良い場所であり、今日も擦れ違いざまの奥様方が話に花を咲かせていた。

 

声を掛けてきたのは前野ひとえ、43歳。
子どもは3人いるが、末っ子ももう高校3年生で大学進学も無事決まり、生活は落ち着いていた。
旦那は長い単身赴任中で、ほぼほぼ一人で子ども3人を育ててきたぽっちゃり系肝っ玉母ちゃんだ。

 

買物からの帰りに声を掛けられたのは今市みのり、38歳。
2人の子どもは中学生1年生と小学生3年生。
子どもたちも少し手を離して良い年頃になってきたので、週3ペースで午前中だけのパートにも出ている。
旦那の実家で姑との同居生活を送っているが、姑との仲がうまくいっていないのが最近の悩みの種だった。

 

「あ、ひとえさーん、みのりさーん、こんにちはー。」

「あー、京ちゃん。こんにちは。たーくん、ひーちゃんもこんにちはー。」

『こんにちはー!!』

「今日も元気だねー。」

 

ひとえとみのりに関西弁のイントネーションで声を掛けてきたのは後田京子、35歳。
最近、関西からこの地域に引っ越してきた家族で、まだ幼い子ども二人を自転車の前後に乗せている。

旦那は転勤族で、日本各地を転々としているが、今回の転勤先は旦那の実家からも1時間程度と近く、また上の子も来年から幼稚園に入るので、この場所で落ち着けたら良いなと思っているようだ。

 

女三人寄れば姦しく、話は尽きない。

近所のあの人がどうとか、あそこのご主人浮気してるらしいとか、次の町内会長はこんな人とか、ソース不明のさまざまな情報がやりとりされている。

 

そう、主婦たちのこのような情報の交流や雑談は、その場に井戸も無いのにこう呼ばれている。

「井戸端会議」と。

これは、かつて長屋の女たちが共同の井戸に集まり、水くみや洗濯などをしながら世間話や噂話に興じたさまをからかった言い方であるが、地域社会を生きる主婦たちにとっては無くてはならない「生きた情報」を得るための重要な場なのである。

 

「あらあら、話し込んでたらもうこんな時間だわ。スーパー行かなきゃ!」

「あらほんと。私も早く帰らなきゃ、お義母さんにまたお小言言われちゃう。じゃあまたねー。」

「はーい、また。ほらバイバイして。」

『ばいばーい!』

「たーくん、ひーちゃんバイバイ。またねー。」

3人の女達はそれぞれの家や目的地に向けて歩き出した。

毎日のように繰り返される、平凡な日々の風景が広がっていた。

 

 

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次元は変わり、こちら5次元世界。

3次元の人々からは「神」と呼ばれる高位次元生命体は、それぞれに管轄を割り振られ、下位次元を管理していた。

こちらの世界にも3次元世界の現代に生きる私たちと同じように「働き方改革」が叫ばれ、休日をしっかりとることやライフワークバランスの健全化が励行されていた。

 

「いやいや、私たちの次元には物理法則とか時間の概念とか、色々なあれこれをどうにでも出来るだけの能力があるではないか!?何をいまさら、有給増やせーだの、働き甲斐を感じたいーだの、プライベート充実させたいーだの言われて、上からも下からも突き上げられなくてはいけないのだ。。」

 

立派な白ひげを蓄えた男性の姿をした神様がため息交じりに独り言ちた。

 

「大変ですね、中間管理職は。それにしてもあの三女神が一斉に連日有給5日間を申請してくるとは、世も末というか、何というか。」

 

脇に控えていた御付きの神官が、慰めるように言う。

「いや全くけしからん。下位次元の者たちの世界の安定は私たちの手にかかっているというのにな。」

神様は険しい表情を作りそう言いつつも、ふっと表情を緩めて、

「まぁ、世界を眺めながら、平和であれーって祈ってるだけで、ほんと暇ではあるんだよな、この仕事。」

と苦笑混じりにそう言った。

 

「神様がそれ言っちゃおしまいですよ。まぁこの数千劫の間、次元振動を起こすような出来事は何もなかったですからね。言いたいことは分かりますけど。」

御付きの神官も苦笑いしながら同調する。

 

「ちょっと3次元にでも干渉して遊んでみるか・・・。」

「神様、、、上に知られて怒られても私は知りませんよ。。」

「お前が洩らさなければ、誰も知ることはできないだろうよ・・・。」

「まぁ、そうですね・・・。」

 

二柱はニヤリと悪い笑みを浮かべた。

 

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舞台は戻り、こちらは3次元。

穏やかな日差しが暖かい平日の昼下がり。

お地蔵さん前に、ひとえ、みのり、京子の姿があった。

平日ではあったが、京子の旦那は代休で子ども2人を家で見てもらっているようだ。

子どもの邪魔も入らず、女3人、思い思いに喋っている。

 

昨日見たテレビの話題、姑の愚痴、子どもの相談事、近所の子の進学情報、ダイエットレシピ、などなどなどなど。

 

話のテーマはあちこちに飛んでいき、まとまりを持ち合わせないが、誰もそんなことは気にもとめない。

 

周りに他の通行人の影もなく、3人は大いに昼下がりの井戸端会議を楽しんでいた。

3人の話を聞いているのは静かに佇むお地蔵さんだけ。3人とお地蔵さんの距離はわずか2mたらずだ。

 

すると、突然そのお地蔵さんが微かに光を放ち、静かに振動した。

 

話に夢中の3人はその変化に気づかない。

 

「そこのご婦人方。」

『(ペチャクチャワイワイ)』

お地蔵さんから声がするが、誰もそちらを向こうともしない。

 

「おーーい!そこのご婦人方!!」

『(ペチャクチャワイワイギャハハハハ)』

 

お地蔵さんは声を荒らげた。

しかし、姦しい女達の話し声は一段と大きくなり、また無視をされた形となった。

 

「むむむ。何とも周りを気にせぬ話しっぷり。こうなれば奥の手。」

お地蔵さんは声色を作り、イケてるボイスでこう言った。

「そこにおられる、素敵な奥様方。少しこちらに来てくれませんか。」

 

「えっ?誰か呼んだ?」

気付いたのは最年長のひとえだった。

 

「こっちです、こっちです。」

その声に反応して、3人ともお地蔵さんを見た。

 

「はぁっ!!!???」

「ええっ、お地蔵さんが光ってる!」

「なんやこれー!!」

3人とも驚きの声を上げる。

 

「驚かして申し訳ない。私は神だ。訳あってここに顕現した。」

『・・・・・・。』

 

「本来であれば3人の女神がこの世界の過去・現在・未来を担っており、3人の協議の上にさまざまな祈りや宣託が下されるのであるが、、、今不在でな。」

『・・・・・・。』

 

「そこで、そなたら3人にはその女神たちの代わりになってもらい、何か願い事などないか聞いてみようと思ったのだ。どうじゃ?何か願いはないか?」

『・・・・・・。』

 

いきなりの自称「神」の登場に、先ほどまでのおしゃべりがウソだったかのように黙りこくってしまった3人。

しかし、ここで京子がおずおずと口を開いた。

 

「・・あのぅ、すいません。お地蔵さんなのに神様っていうのは、なんでなん、ですか・・・?」

「えっ?京ちゃん、そこ?」

「でも、確かに・・。お地蔵さんは神様ではなく仏様よね・・?」

二人も京子につられるようにして、閉ざしていた口を開く。

 

「我らは、人々が祀っているものであれば何でも媒体にして降りることができるのだ。そんな些細なことは気にする必要はないぞ。それよりも何か願いはないか?何でも聞いてやるぞ。叶えられるかどうかは別としてな。」

 

「あ、叶えられるわけではないんですか。。シェンロン的な感じじゃないんですね・・・。」

少し残念そうにみのりがつぶやく。

 

その後ろで、ひとえが京子にひそひそと耳打ちする。

「(ねぇねぇ、私、こんな感じのドッキリをこの前テレビで見たわよ。)」

「(私も見ました!これたぶんあれですよね!?ニンゲン観察バラエティ モ○タリング!!)」

「(そうそう!!それそれ!!絶対どこかにカメラがあるわよ!)」

「(これはチャンスですね!!気の利いた願いを考えてオンエアー狙っていきましょ!)」

「(さすが関西人ね!みのりさんにも伝えなきゃ!)」

 

ひとえはみのりにも耳打ちして、これがテレビのドッキリであるだろうということを伝えた。

当然、みのりも乗り気だ。

 

「では、神様、3人で少しダケ話し合って願いを決めても良いデスカ?」

「(ひとえさん、棒読みのセリフみたいになってる!!自然に自然に!!)」

 

「あぁ、もちろんだ。3人で話しあって有意義な願いを決めなさい。」

 

あるはずのないオンエアーに向けた、3人の代理女神による真剣井戸端会議が始まった。

 

一番張り切っているのは京子だ。司会進行役を買って出た。

「ひとえさん、何か願い事ありますか?例えば・・・あ、単身赴任中の旦那さんに逢いたいとか!」

「あの人この3連休に帰ってきたばかりなのよ。逢いたくないわけじゃないけど、、当分いいわ。」

「そうですか。。みのりさんは?・・・例えば、、、あ、姑さんを施設に入れたい、とか!!」

「京子ちゃん、、、そんなことは心で願っていても絶対口に出しちゃいけないでしょ。全然テレビ向けじゃないじゃない。その願いを出して良いのは民放のバラエティ番組じゃなくて、NHKのドキュメント番組よ!」

「そうですよねぇ。。」

「京子ちゃんの願いは何かないの?」

「私ですか?うーーん、うちの子来年から幼稚園なんですけど、ほんとは保育園に入れたかったんですよねぇ。申請はしたものの私が働いてなきゃいけないとか色々制約多くて・・・。なんで願いは、誰でも保育園に入れるようにしてほしい、ですかね。」

「・・・これも深い社会問題。。バラエティ向けとは言えないわね。。」

「そうなんですよねぇ。。」

 

 

「どうだ?願いは決まったか?」

光るお地蔵様から声が掛けられる。

「あ、すいません、もう少しお時間ください。」

「よかろう。」

 

次はひとえが会議を回す。

「バラエティ向けということであれば、私たちの生活に関する願いじゃなくて、芸能人とか絡めた願いが多くない?芸能人のだれだれに逢いたいとか。」

「あぁ、ありますね。テレビ局の力で芸能人を引っ張ってくる感じですね。」

「みのりちゃん、京子ちゃんは誰か逢いたい芸能人っている?」

「ううぅーーーん。」

「単純に逢いたいって思える人はたくさんおるけど、逢ってリアクションしているところをカメラで映されること考えると、ちょっと気が引けるというか、何というか。」

「そうよねぇ。。」

「分かるわぁ。。」

 

 

「あ!!じゃあこんなのはどうですか?!」

みのりが閃いた様子で話し出した。

「モ○タリングって昔ベッキー出てましたよね?不倫騒動で干されちゃって、、私あの騒動は今だに納得できてないんですよね。」

「あぁ、えのんちゃんとのね。あったわねー。もう懐かしいわ。」

「そのベッキーがどうかしたんですか?」

「私、ベッキーにはどんな形でも良いから幸せになってもらいたいのよね。昔からとてもファンだったし。逢いたいってわけじゃなくて、彼女の幸せを願いたいなぁって。」

『・・・はぁ。』

「ここで、ベッキーの名前を出してあげて、またモ○タリングに復帰できれば良いなぁとも思うし。」

『・・なるほど!』

 

「じゃあ、私たちの願いは、”ベッキーに幸せになってもらいたい”で良いですか?」

「私は他に良い願いも思い浮かばないし、みのりちゃんのその“人を思う願い”はステキだと思うわよ。」

「ちょっとスポンサーとか業界的にオンエアー難しいかもしれんけど、、、私も良いですよ!」

「ありがとうございます!」

 

「神様!!願いが決まりました!!」

「おお、そうか。では何なりと申されよ。」

「はい!私たちの願いは”芸能人のベッキーに幸せになってもらいたい”です!!」

「ほう、自分たちではなく他人の幸せを願うとな。それは見上げた心意気だ。分かった。では、その願い引き受けた。」

 

そう言ってお地蔵様の光は徐々に弱くなり、いつものお地蔵様に戻った。

3人はお地蔵様の裏を覗いたり、マイクがないか探したり、周りにカメラがないか探したが、それらしい物は何も見つからず、不思議に思いながらも、現代の撮影技術や音響技術はすごいのねーと感心しながら、それぞれの帰路に着いた。

 

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数日後、ネットや新聞に大きくニュースが躍った。

ベッキーのインスタが更新され、こう書いてあったのだ。

 

<becky_dayo>
私事ではありますが、先日、読売巨人軍内野守備走塁コーチの片岡治大さんと結婚いたしました。
これからも、感謝の気持ちを忘れず、ゆっくりと、しっかりと歩んでいきます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

スマホやテレビでそのことを知ったひとえ、みのり、京子はそれぞれにこう思った。

 

 

「今日の井戸端会議のテーマはこれしかないっ!!」

と。

 

 

まもなく春が訪れそうな午後の陽気の中、いつものお地蔵さん前に、楽しそうに話に花を咲かせる3人の姿があった。

 

 

おしまい。

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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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あとがき

 

どうも、やーさん(@ohokamudumi)です。

Twitterの中でこぼりたつやさん(@tatsuya_kobori )が企画されている3000文字チャレンジに挑戦!

ということで今回も3000文字チャレンジに挑戦してみました。

今回のテーマは「井戸」。

またまた妄想全開で創作系ショートストーリーとなりました。

 

少し前のベッキーの結婚報道に驚いたので、がっつり入れ込んでみました(笑)

奥様方の井戸端会議が、意図せず一人の女性の運命を変えたというお話でした。

あとは暇を持て余した神々の遊び、的なお話も入れて。

そして「過去・現在・未来」を司る女神と言えば「あぁっ女神様っ」ですね。

「あぁっ女神様っ」久々に読みたくなりました(笑)

 

 

さて3000文字チャレンジもどんどん参加者が増えて盛り上がりを見せています!!

今回は参加者のみなさん、どんな「井戸」を書かれるのでしょうか。

書くのも読むのも楽しい3000文字チャレンジ!あなたも参加してみませんか?

 

 

この記事を偶然見てくださったあなた!!

すぐにTwitterで「#3000文字井戸」「#3000文字チャレンジ」などで検索して読んでみてくださいね!!

きっとたくさんのおもしろい話に出会うことができますよ!!

 

 

最後に、こぼりさんのルール説明の中で

・否定&批判コメント禁止! 物好きたちが好きで勝手にやってることです。そっとしておいてやって下さい。もちろん、お褒めのコメントは無限に欲しいです。

とありますので、何卒温かい目で見てください。

 




 

やーさん

最後までお読みいただきありがとうございました!

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