【3000文字チャレンジ】秋に失った恋とマヨネーズおじさん

【3000文字チャレンジ】秋に失った恋とマヨネーズおじさん

3000文字チャレンジ!  お題「マヨネーズ」

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喉元過ぎれば熱さを忘れる。

人間誰しも忘れたいことの一つや二つは必ずあるし、だいたいがほとんどのことは忘れてしまう生き物だ。

夏の焼けるような日差しが、どんな熱さだったのかも少し記憶に遠くなった初秋のある日。

ぼくの目線の先にある水平線には日が沈み行き、交代するかのように少し欠けた月が東の空に昇り始めていた。

 

春はあけぼの、秋は夕暮れ。

かつての才女が説いた通り、秋は夕暮れの時間帯が一番美しい。

頬を撫でていく秋の風が、言葉にならない感傷をもたらす。

 

ここは海辺に建つ一軒の少し寂れたバーの中。

海に面した店の西側は全面ガラス張りで、絵に描いたような見事な夕景が楽しめる。

ぼくは一人、カウンター席に座って、開け放たれた窓から吹き込んでくる涼風を心地よく感じながらシンガポールスリングを傾けていた。

サマセット・モームがシンガポールでどんな夕日を拝んだのか知らないが、ここから見る夕日だってなかなかのものだ。

この夕日をゆったりとした心持ちで眺めるだけで、この店に数千円を落としていく価値があると感じている。

 

ここ数年間、何度かこの店には来ているし、ここから見る秋の夕景は初めてではなかったけれども、今日はいつもに増して感傷的にならざるを得なかった。

そうなる理由がぼくにはあったのだ。

シンガポールスリングの中に入っているチェリーとレモンのトロピカルな味わいは、彼女との楽しかった思い出を彷彿とさせる。

あの熱い恋は夏の暑い風と共に去っていったのだろう。

この一杯を思い出と一緒に飲み干したら、次はキックの強いショートカクテルをオーダーして、夜風に吹かれながら帰ることにしよう。

そうだな、「XYZ」なんかが良いかもしれない。

アルファベットのラスト三文字を冠したカクテル。

彼女との思い出に終止符を打つにはちょうど良いじゃないか。

 

 

「マスター。XYZをひとつ。」

「・・・はい。」

 

物静かにマスターは返事をして、カクテルを作り始める。

 

窓から見える夕日はもう半分沈んでしまった。

 

その時、カウンターの右隣の席に人が座る気配がした。

 

「ヘイ、アミーゴ。XYZを頼むなんて、何か悲しいことでもあったのかい?」

背中越しに、やけに馴れ馴れしく声を掛けられた。

 

驚いて振り返ってみると、赤いキャップを被った中年男性がそこに座っていた。

 

赤いキャップの下にはちょび髭のテカテカと脂ぎった丸顔があり、やけになで肩でフラスコのような体つき。しかも全身淡いクリーム色の服装をしていて、なんだかマヨネーズの容器を思い起こさせる容姿だ。

 

(なんだこのおっさん・・・いきなり隣に座りやがって。)

 

「・・いえ、別に、、、。」

とぼくは目線を外しながらそっけなく答えた。

 

「ふふん、隠し事は良くないぜぇ。その顔は失恋だろ?恋愛の達人のオレ様には分かっちゃうんだよなぁ。」

 

テカテカの顔がニヤニヤと笑う。

失恋していることを当てられるのも何だか悔しさが込み上げてくるし、それを笑われているようで腹が立つ。

マヨネーズおじさんの言葉はシカトすることにする。

 

「失恋。ツライよなぁ。特に秋の失恋はなぁ。夏に燃え上がった恋が、まるで線香花火がぽたっと落ちるようにジュっと音を立てて消え去ってしまう。滑らかなあの肌も、やわらかいあの唇にも、繊細なあの心にももう触れることができない喪失感。だろ?アミーゴよ。」

「(何言ってやがんだ、こいつ。)・・・。」

ぽたっ とか ジュっ とか言う時にやけに芝居がかった口調になるのが腹立つ。

いや、セリフの一言一句が腹立つ。

 

 

「・・・お待たせしました。XYZです。」

マスターが氷の結晶の漂う白く美しいショートカクテルを運んできた。

シンガポールスリングの空いたグラスを渡して、XYZを迎える。

 

「アミーゴ、乾杯しようぜ。」

マヨおじが、ウイスキーロックの入ったグラスを掲げてくる。

気色の悪いウインク付きだ。やめろ。

しょうがないから乾杯の動作には付き合う。

 

「若者の失恋に乾杯。」

「(イラッ)・・・。」

 

いらだちに任せてXYZを口に含む。

ラムとコアントローの香りが口の中に広がる。

アルコールが冷たさと共に、脳と胃に広がっていく。

 

「XYZ。終わりを意味するカクテルか。」

「・・・・。」

 

「どんな恋だったんだい?アミーゴ。」

「・・・・。」

シカトしているのにお構いなしにしゃべりかけてくるマヨおじ。

ウザいな。どっかいけよ。

あと、やたらとアミーゴっていうのやめろ。

ぼくはあんたのアミーゴじゃない。

 

「はっはっは。まだ生々しい傷跡を語りたくもないか。」

「・・・・。」

 

「じゃあ、俺の恋愛経験でも話してやろうか。」

「(はぁ?なんでそうなるんだよ?自分語り始めるなよ。)・・・。」

 

返事をしたら負けな気がして沈黙で返してしまったのがいけなかったようだ。

肯定の沈黙と受け取ったマヨおじが話し始めた。

誰だよ「沈黙は金」とか言ったやつ。

ぼくは今心底「NO!」と言える日本人になりたいと思ってるよ。

 

 

「そうだなぁー。恋愛というのは人間関係の中でもかなり密度の濃い繋がりとなるよなぁ。一人の人間と人間が向かい合って、恋をする。・・・向かい合っていた恋は、同じ方向を向いて進んで行くときに愛となる、なんてな。」

「・・・・。」

「恋は下心。愛は真心なんてことも言ったりなぁ。けどなぁ、下心も真心も人を大きく変えてくれるきっかけになるんだなぁ。」

「・・・・。(何だ?何の話しをしようとしているんだ?)」

 

 

「俺はなぁ、夜の性活テクには自信があるんだよ。アミーゴ。」

「(ブフーーーー!)」

口に含んだカクテルを噴いてしまったじゃないか。

どういう話の流れだよ。

何で同性からこんなセクハラまがいの言葉を聞かなきゃなんないんだよ!!

聞きたくねぇよ!脂っこいおっさんのテクがどうのこうのなんてよ!!

 

「でもな、ある時、上に乗られているのが重たいって言ってフラれてしまったんだよ。」

「·····はぁ?(しまった。つい返事をしてしまったじゃないか。)」

 

「でな、そこから一念勃起もとい一念発起だよ。130kgあった体重を半分まで減らしたんだよ。」

「それは·····すごいですねwww」

 

笑ってしまったのは一念勃起とかいう、とことんくだらない下ネタギャグのせいではない。

その時ぼくの頭の中では

(マヨネーズの体重が半分・・半分・・・ハーフ・・・キューピーマヨネーズ カロリーハーフwww)

という思考がぐるぐると渦巻いていて、つい笑って相槌を打ってしまったのだ。

だいたい人間一人分の体重が落ちて、そのだらしない体型は何なんだよ。

変な痩せ方して、変なリバウンドでもしたのかよ。

 

笑いを取れたと勘違いしたマヨおじは更に饒舌になり、色んな恋愛経験を語り出したのだが話の至るところでマヨネーズが頭によぎってしまい、酒酔いのせいもあってぼくの脳の回路はショート寸前、正常な判断が失われてしまっていた。

つまり、ぼくは異常に楽しくハイなテンションになってしまい、ゲラになってしまったのだ。

 

マヨおじが、かつてベジタリアンの彼女がいたと言えば、否応もなくマヨネーズで和えたサラダがイメージされてしまうし、アノ時にピクリとも動かない彼女がいたという話では「(マグロな彼女・・・ツナマヨじゃねぇかwww)」と爆笑してしまった。

 

最初は仏頂面だったぼくがゲラゲラ笑っているのが気持ちいいのか、マヨおじは更に顔をテカテカにして自分語りをしている。

 

と不意にスマホの着信音が響いた。

マヨおじがスマホを取り出す。

 

そのスマホのイヤホンジャックにはキューピー人形が刺さっていた。

「ブフーーー!!」

キューピー人形www

なんでキューピー人形刺さってるの?!www

やっぱりマヨネーズ意識してんの!?www

それを見たぼくはもうお腹がよじれんばかりに笑ってしまい、カウンターに突っ伏してしまった。

 

 

「あ、オッケオッケー!すぐ行くよ、ハニー。待っててねー。はーい。」

ぼくがお腹を抱えて突っ伏して笑っている間にマヨおじの電話が終わった。

 

ぼくがキューピー人形にウケていることを何となく察したマヨおじが

「良いだろうアミーゴ。このキューピーちゃん。愛しのハニーがくれたんだよ。今からそのハニーに逢いにいくからよ、今夜はこれでアディオス。元気出せよアミーゴ。この世の半分は女だぜ。終わりがあるから始まりがあるんだからよ!!なっ!!」

 

と言って、ぼくの肩を叩いた。

 

笑い過ぎて目に浮かんだ涙を拭いながら

「ありがとうございます。」

と返し、今の彼女さんってどんな方なんですか?と聞いてみた。

今の彼女さんとはどんなマヨネーズエピソードが生まれてしまうのか、興味津々だったのだ。

 

「今のハニーとはめちゃくちゃ体の相性が良いんだよ。もう最高過ぎて離れられんくらいにな。真っ赤なドレスが似合う情熱的でお尻の大きな愛しいハニーさ。アミーゴも夢中になれるハニーと出会えるといいな!!じゃあな!!」

と言って支払いを済ませて、バーから出て行った。

 

アルコールの回ったぼくの頭に浮かんだ、マヨおじのハニーのイメージは完全にケチャップだった。

マヨネーズとケチャップ・・・・合わせればオーロラソースの出来上がり。

そりゃ相性も良いはずだわー、と思いながらふふふと笑いながら、西の窓を眺める。

 

窓の外はもう真っ暗になっていた。

その暗さとは反対に、落ち込んでいた気持ちが知らない間に明るくなっていた。

今夜は上を向いて、星を眺めながら帰ろう。

 

お会計をしようとマスターに声を掛けたら

「・・・もうお代はいただいていますよ。」

と言われた。

 

 

マヨおじ・・・。

下ネタばかりであんなダサい恰好してたのに、·····かっこいいことするじゃないか。

 

またこのバーで会えたら、今度はぼくの話しをしよう。

新しい恋の相談に乗ってくれよ。

な、恋のキューピーマヨネーズおじさん。

 

 

 

おしまい。

 

やーさん

最後までお読みいただきありがとうございました!
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