【3000文字チャレンジ】本物
- 2023.09.04
- 雑記
- 3000文字チャレンジ, 創作, 変態
3000文字チャレンジ! お題「本」
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夏の暑さもようやく落ち着き、二学期の授業も通常モードになってきた9月下旬。
西日が射す川沿いの土手には秋を感じさせる風が吹いていた。
そこに一人の男子高校生の姿があった。
まだ夏の名残がある半袖の白シャツから伸びる日焼けした腕。
緑色縞柄のガチャベルトを巻いた制服ズボン、左耳には夏休みに遊びで開けたピアス跡。
少しチャラついた雰囲気があるが、かわいらしい優顔のせいか人懐こそうという印象が強い。
成長期の夏休み。
一気に背が伸びたのだろうか、土手の階段に腰掛けているとはいえズボンの裾から見える靴下の面積があまりにも大きい。
彼は眉間に皺を寄せながら、手に持った一枚のプリントとにらめっこしていた。
「おーい、リョウター!」
自分の名前を呼ばれ、彼はプリントから目を外し、声の主の方を見た。
「おー、コースケ。部活帰り?」
コースケと呼ばれた彼はジャージ姿で、大柄な身体に坊主頭、それに加えての黒縁メガネ。
人の良いゴリラみたいな風貌だ。(人の良いゴリラって何だ?)
「そ、今日は自主練だったから早く上がってきたんだ。」
白い歯をニカっと輝かせながら爽やかに返事をするコースケが小走りに駆けてきて、リョウタの隣に腰掛ける。
コースケは陸上部で円盤投げをしている。
リョウタも何度か練習中のコースケを見たことがあるが、投擲のその姿はまるでドンキーコングが回転しているようだった。ザンギエフと言っても良いかもしれない。ぐるぐると回転する立派な体躯から発射された円盤は、運動場の端を越えて校外まで飛んでいくんじゃないかと思わせる勢いで空を切り裂いていったのを覚えている。
少し背は伸びたとは言え、クラスで背の順に並んだ際には前から数えた方が早いリョウタと、毎度毎度シンガリを務めるコースケ。
見た目からして凸凹な二人だが、小学校時代からの友人で、お互いの家が近いこともあって家族ぐるみでの仲良しコンビである。
「ところでリョウタよー、スマホ貸してくんない?アダチに連絡取りたいんだけど、俺の電源切れちゃってよ。」
「アダチ?あぁハカセか。何の用?ってか、あー、スマン。オレも今スマホ電源落ちてんだわ。」
「うわー、マジかー。”スマホが無いと女の子と連絡取れなくてシぬ!”なんて言ってるリョウタのスマホが死んでるとか珍しいな。」
「はぁ?オレ、そんなこと言ってねぇよ!!」
笑いながらグーパンでコースケの右肩に突っ込むリョウタだが、タイヤのような分厚い筋肉に拳を弾かれる。
「いーや、言ってるね。リョウタよー、じゃあさ、お前この夏休み何人の女の子と遊んだよ?」
「はぁ?いきなり何だよ?・・ニサン・・ロクナナ・・ジュウ・・12~3人じゃね?」
思い出すように指折り数え、両手の指を使い切ったところからテキトーになったリョウタをジッと見つめながらコースケがボソっとつぶやく。
「クソヤリチンヤロウガ…」
「え?何か言った?」
「何も言ってねぇよッ!!」
コースケが右拳でリョウタの左肩を軽く殴る。
リョウタの左肩が弾け飛んだ、、、なんてことは起きなかったが、体の芯まで衝撃が届いているようだ。ウゥ…ヤメロヨ…と苦しそうに呻いている。
部活に汗を流す青春と、バイトで汗をかきつつそこで知り合った女の子ともちゃっかり遊ぶ青春。
夏の思い出は人それぞれである。
「で、今日も女の子とメールとか電話しまくって電源落ちてんの?」
「んな訳ねーだろ。ちょっとしたゲームだよ。」
「ゲーム?」
「そ。図書室にさ3組のアリサって子いんだろ?図書委員で貸し借りの受付やってるメガネの子。」
「あー・・・いるね。あの身長高くておとなしい子だろ?1年時同じクラスだったわ。全然喋ったことないけど。」
コースケが思い出すように宙を眺めながら返す。
「オレのセンサーでは、あの子、かなりエロいと思うんだよ。」
リョウタがいやらしい目を隠そうともせず言い放つ。
「はぁ?マジかよ。図書室に籠ってるようなメガネ女子がエロいわけねーじゃん。」
「まぁ、純朴なコースケくんには分からんと思うy 痛いっ!!!」
またリョウタの左肩が弾け飛んだ。
「で、ゲームって?」
苦痛に呻くリョウタを軽く睨みながらコースケが問いかける。
「アリサにさ、今度デートしてくんない?って誘いに行ったんだよ。図書室までな。」
「は、何?その行動力、怖いわ、お前。」
「いやいや普通だろ。まぁそれでだよ、そしたらアリサがプリントに問題を書いてさ、”これが解けたらもっと良いことしてあげる”って言うんだよ。」
「なんそれ!アリサってそんな挑発してくる子なの!?怖いわお前ら、お前ら怖い。」
大きな図体でキャーキャー言うコースケを無視して、リョウタが手に持ったプリントを指さす。
「このプリントの問題解けたら良いことしてくれるってんだけど、スマホで調べちゃダメだって言うんだよね。目の前で電源落としてってまで言われちゃって。で、電源落としてるってワケ。」
「ふーん。お前意外と真面目に約束守るんだな。ちょいプリント見せて。」
「意外と、は余計なんだよ。」
ん、と言いながらリョウタがプリントを渡す。
そこには達筆な手書きで問題が置かれていた。
ーーー
■下の3つの問題を解きなさい。
Q1、以下の四文字熟語の空欄に当てはまる共通の文字□を答えよ。
・ □地垂迹
・ □家□元
・ 王法為□
Q2、以下の言葉を完成させる共通の文字〇を答えよ。
␣␣␣当
␣␣␣↓
輪 →〇→ 長
␣␣␣↓
␣␣␣台
Q3、Q1・2の答えを並べて出来る熟語を答えよ。
ーーー
「ほーん、なるほどなるほど。」
「コースケ、分かる?オレ、こういう系全然分からんねーんだよなぁ。」
リョウタがコースケの光るメガネの奥を見ながら白旗を振る。
「これがこうで、こうなって、こうだろ。あぁ、なるほどね。」
「え!コースケ分かんの!?」
「全く分からん!!」
「んだよッ!脳筋のお前をアテにしたオレがバカだっt 痛ァァアッ!!」
鈍い音がしてリョウタの頭部が地面に転がり落ちた、、、ように見えるほどにするどい物理的なツッコミが入った。
「いや、こんな問題をさらさらっと書いて寄越すなんて、アリサってかなり変わってんのな。」
「そうなんだよなぁ。地味なメガネっ子がエロいとかほんとポイント高い。」
「リョウタよ、、、。」
残念な二人を照らしていた夕日が西の山に沈み、カラスが鳴きながら山へ帰っていく。
解けない問題を二人で眺めていると、少し離れたところから声がかかった。
「おぉーい、コースケ氏!こんなところに居たのでござるかぁ。グラウンドまで探しに行ってしまったではないでござるかぁー。」
「あー、アダチー!悪い!スマホの充電し忘れで切れちまって。」
「おー、ハカセー、久しぶりだな。」
「リョウタ氏ー。夏休みの間にずいぶん焼けたでござるな。いやー乱世乱世。」
「そういうお前は相変わらずひょろくて白いな。夏休みもずっと室内で勉強か?」
「当たり前でござる!勉学なくして成功なし。学生の本分は勉学でござるからな!」
マンガから飛び出してきたような牛乳瓶底メガネにオカッパ頭、ピチピチサイズの学ランを纏い語尾が「ござる」の変人はアダチヒロシ。ヒロシは「博士」と書くのでリョウタ達一部の学友からはハカセと呼ばれている。
「相変わらずクセが強いな。で、コースケはハカセに何の用だったんだよ?」
「あぁ、そうそう、授業ノートを貸してもらう約束だったんだ。」
悪いな、と言いながらハカセから英語のノートを受け取るコースケ。
英語の授業はいつも睡魔にやられると言っていたが、こうして赤点をギリギリ回避しているのかとリョウタは納得した。
「ところで御両人は何をなさっておいででござるか?」
「あ、そうだ、ちょうど良いや。ハカセ、この問題分かるか?」
そう言ってリョウタが例の問題が書かれたプリントを渡す。
「ほぉ。クイズでござるな。ふむふむ。」
メガネのブリッジにわざとらしく指を添えて考えこむこと、10秒。
ハカセのメガネがキラリと光った。
「Q1の答えは”本”でござろう。本地垂迹、本家本元、王法為本という四文字熟語に共通するのは本でござる。ちなみに本地垂迹というのは、日本の神々というのは 本地である仏・菩薩が世の衆生を救うために、姿をかえて現われt
「あー!分かった分かった。そんな解説どうでも良いんだよ!!」
「さすがアダチ。そんな言葉どこで知るんだよ。」
「で、で、2番目の問題の答えは!?」
感心するコースケと、問題の答えを急くリョウタに挟まれ、ハカセは何とも言えない表情を浮かべながらメガネをクイッと上げる。
「2問目の答えは”番”でござるな。当番・輪番・番長・番台でいずれも番を入れることによって言葉が完成するでござる。」
「番か、なるほどね。」
「っていうことは、Q1とQ2の答えを合わせると・・・・」
「「「本番」」でござるな。」
三人の声が揃ったのち、一瞬の沈黙が流れる。
「え?待って。これってアリサがオレと本番ヤラせてくれるってこと?」
「デートよりもっと良いことって、そういうことかよ?なんそれ怖っ!!」
「本番って何でござるか?撮影でござるかぁ?」
ハカセだけは状況を飲み込めずに頓珍漢なことを言っている。
太陽も沈み切り、夕闇が迫ってくる黄昏時。
やべーやべー!と騒ぐ男達の傍にその人は現れた。
「ねぇ、リョウタくん。そういうのは、人に教えてもらったら、ダメだよねぇ?」
ゆったりと甘く、そしてどことなく冷たく凛と響く声が風に乗って男達の耳に届く。
「アリサちゃん!!」
驚いた様子でリョウタがその名を呼ぶ。
「ねぇ、ポチ。誰が私の遊びの邪魔して良いって言ったのかなぁー?」
「(ポチ?)」
「(ポチ?)」
リョウタとコースケの頭の中に???が浮かんだその瞬間、隣でワン!と大きく吠えた影があった。
ハカセだった。
「ご主人様の問題だと知らずに解いてしまったでござるぅう!申し訳ございませんー!」
「ねぇ、ポチぃ。誰が喋って良いって言ったのかなぁ?」
「ひいぃぃぃいっ!!」
いきなりの展開に付いていけない目が点の二人と、青ざめる一匹。
「まぁいいや。リョウタくん、今回のはズルだから無しね。また今度、遊ぼうね。じゃあね。」
目の奥に妖しい光を揺らしながら、手を振って歩き出すアリサを、待ってくださいご主人様ぁぁあーとハカセが慌てて追いかける。
去っていく二人を呆然と眺めながら、ようやくコースケが口を開く。
「なぁ、リョウタよ、お前あんなのが良いの?」
「・・いや、オレにはまだ早かった。あれは、本物だわ。」
握力0になったリョウタの手からプリントが滑り落ち、秋風に舞って飛んで行った。
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【あとがき】
はい、どうもー!!
3000文字チャレンジが久々に復活!ということで「本」をテーマで書いてみましたよ!
文章を愛する人たちが綴る色んな3000文字チャレンジ。
書くのも読むのも楽しいですねぇ!!
たまーのこういう復活イベントは同窓会みたいで楽しい!!おもしろい!!
お題があるからこんな変態チックな妄想創作ストーリーも書けるってもんで、一種の免罪符のような感じもありますね。(いや、免罪となってるかどうかは知りませんがw)
また次の機会もあれば、何かしら書いてみたいなと思います。
ほな、またねー!
最後までお読みいただきありがとうございました!
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