【感想】絢爛豪華な世界に蠢くミステリー!?「烏に単は似合わない」を読みました。
楽しそうに長琴を操る体全体から、夏を迎えた喜びが感じられる。
思い起こされたのは、清らかな山の湧水であった。あせびの指、一本一本が絃を弾く度に、冷たく、玉のような透明な水が、こんこんと湧き出てくる錯覚を覚える。
きらめく雫に、夏の光が反射する。
瑞々しい輝きに、しなやかに体を広げる若葉は、喜びの声を上げるのだ。
身の内から発光するかのようなあせびの姿に、いつしか真赭の薄は、息を呑み込んでしまっていた。
引用:「烏に単は似合わない」阿部智里 P.116-117
上の引用は、この物語の主人公の一人である「あせび」が琴を演奏した際のものですが、何とも美しい表現で読み手に、その琴の音だけでなく、その場を覆う空気までも感じさせるような高い文章力を感じます。
物語の随所に、上記のようなとても美しく、緻密な表現が散りばめられていて、とてつもなく壮大で華やかな世界観を創り上げた作品が「烏に単は似合わない」(阿部智里 著)です。
今回の記事は、史上最年少で松本清張賞を受賞した阿部智里 著「烏に単は似合わない」を読んだ感想です。
すでに読まれた方は、この素晴らしい作品を思い出していただければと思います。まだ読んでないという方は、ネタバレは極力控えますので、安心してご覧ください。
色んな方からオススメされながらも、なかなか読めず、今ようやく読めて「もっと早く読んでおけば良かった!!」と思えた作品でもあります。
興味を持たれた方はすぐに読まれることをおすすめしますー!!
「烏に単は似合わない」 あらすじ
物語の舞台となる世界は、人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」。
人が大きな烏に変化できる、そんなファンタジー溢れる世界でのお話です。
山内を統べる宗家の世継ぎである若宮の、后選びが行われることとなり、東西南北の大貴族四家から4名の姫君が差し遣わされます。
それぞれの家は朝廷における権力争いに激しくしのぎを削っていて、どの姫君が入内するかによって、今後持ち得る権力が大きく変わってくることから、さまざまな陰謀や思惑、そして恋心が渦巻きます。
后の座を競い合う、春夏秋冬を司るかのような、それぞれに魅力的な姫君たち。
しかし、みなその裏にさまざまな秘め事を持っていて・・・。
1年を通して季節ごとに宮廷行事が行われ、その度に若宮との対面を心待ちにする姫君たちですが、いつも何かに邪魔されるように一向に姿を現さない若宮。
そんな中、次々と不可解な事件が起こります。
侍女の失踪、消える手紙、後宮への侵入者……。
源氏物語を思わせるような、美しく華やかな宮廷生活の水面下で繰り広げられるミステリー。
若宮に選ばれるのはいったい誰なのか?
きっと、あなたの想像を覆すラストが待っています。
「烏に単は似合わない」 ここがおもしろい!
この物語のおもしろさは、前半と後半のギャップがすごいところでしょう。
裏切られます。良い意味で。
ぼくは読み終わった時に「うぐぐぐぐ。。そうきたかぁぁぁ!!」と声が漏れましたね(笑)
そんなストーリー構成もさることながら、とてつもなく高いレベルで世界観が創り上げられているところにも魅力を感じます。
全編を通して最初の引用であげたように、とても繊細で緻密な筆致で華やかな王朝文化を思わせる世界が描かれるのですが、本当にその美しい世界に酔いしれることができます。
美しい姫君たちの容姿はもちろんのこと、纏う着物の表現の優雅なこと。
調度品の数々や焚かれた薫物など、その姿や香りをありありと想像できるような描き方です。
その文章を読んでいくと、もう頭の中に立派な「山内」の世界が出来上がります。
大きな滝が流れる峻嶮な岩山に贅を尽くして建てられた館。
それぞれの姫君の住まう殿には、春夏秋冬の美しさが最大限に映し出され、差し込む月の光や流れてくる琴の音まで聞こえてくるようです。
「烏に単は似合わない」 魅力的な姫君たち
登場人物のキャラクター設定もメリハリが付いていて非常に良いです。
東家二の姫 あせび
春の家の姫君。
本来であれば姉の双葉が登殿する予定だったのが病でそれが叶わず、急遽白羽の矢が立ったシンデレラ的存在。
幼い日に見た少年の姿をずっと胸に秘めています。
仮名である「あせび」が皮肉を込めて与えられた名前とも気付かない世間知らずで純粋無垢な、薄茶色の髪を持つ可憐な少女です。
后として入内するには貴族としての教養が足りない面も多々見受けられますが、それを補って余りあるほどの琴の名手。
この記事最初の引用部分がまさにあせびが琴の腕前を披露して、彼女の評価が一変する場面。
その場面を読んだ時のぼくの思いは
「やったぜ!あせびちゃん!!君こそ后に選ばれる存在だ!」
でした笑
南家一の姫 浜木綿(はまゆう)
夏の家の姫君。
豊満な肉体美、目鼻立ちのはっきりとした顔立ち、自由奔放で姉御肌的な物言い。
お淑やかさなんてまったく持ち合わせていないような、お姫様らしくない姫君です。
昔からこの手の姉御肌系キャラが好きなぼくにとっては一押しのキャラです。
事あるごとに政敵である西家の真赭の薄とは険悪なムードになります。
全く持って后になりたいようには見えない、彼女の動きに隠された秘密とは?
そんなところに注意して物語を読むのも楽しいかもしれませんね。
西家一の姫 真赭の薄(ますほのすすき)
秋の家の姫君。
とにかく美しくプライドの高い姫君。女王様キャラ。
登場シーンからして、その美しさの形容がすごいです。
赤い光沢をもった黒髪、薔薇(しょうび)色の肌は匂うように艶かしく、みずみずしい唇は熟れきった甘い果実のよう、ととんでもない美しさで表現されます。
権力争いに熱心な西家の為に、そして自身の恋心に正直に后への道を突き進んでいく美しい姫君。
高飛車で鼻に付く言動も多いです。
ですが、本当は豊かな優しさを持ち合わせた女性だということも物語が進む中で分かってきます。
北家三の姫 白珠
透き通るような白い肌、ほっそりとした小柄な体つきの姫君。
垂れた目尻もかわいらしく、とても大人しい彼女ですが、北の家から託されたプレッシャーをその小さな背中に背負い、権謀術数渦巻く山内にて奮闘します。
ですが、ある事件が起きて・・・。
登殿する前の彼女とある男のエピソードが語られるのですが、そのエピソードがとても良いです。
キュンキュンしますよ笑
以上の4人の姫君を中心に、物語は進んでいきます。
もちろん、上にあがった姫君たち以外にも、それぞれの姫に付き従う個性豊かな女房たちや、なかなか出てこない若宮、その妹の藤波、陛下の正室である大紫の御前など多くの登場人物が出てきます。
豪華絢爛な舞台において、多くの登場人物がそれぞれの思惑で立ち回り、動き回り、ある事件を境に物語は思わぬ方向へ進んでいくのです。
語られるのは、世代を超えて紡がれる人間模様とミステリー。
断言します。
あなたはこの本を読み終わった時、もう一度初めから読みたくなります。
それほどまでに裏切られますから笑
「烏に単は似合わない」 シリーズ紹介
さて、この「烏に単は似合わない」ですが、「八咫烏」シリーズとしてすでに6冊が刊行されています。
第一弾が今回ご紹介しました「烏に単は似合わない」
第二弾「烏は主を選ばない」
第三弾「黄金の烏」
第四弾「空棺の烏」
第五弾「玉依姫」
第六弾「弥栄の烏」
第一弾の「烏に単は似合わない」を読んだだけでも分かる、この細部まで創り上げられた世界観。
きっとどの本にも心を躍らせてくれるようなドキドキワクワクするような展開と、感嘆のため息を漏らさせるような素晴らしい風景・心理描写が詰め込まれているのだろうなぁと想像できます。
さぁ、ぼくは2巻目買って読んでみよー!!
この記事をご覧になって気になったあなたも、ぜひ読んでみられてはいかがでしょうか?
読まれたら、ぜひネタバレありで語り合いましょう!!
ではでは!
最後までお読みいただきありがとうございました!
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